e未来へ挑む坂の街 長崎市からの報告(下)

  • 2017.05.24
  • 情勢/解説

公明新聞:2017年5月24日(水)付



バリアフリー観光
官民学の連携で挑戦
傾斜や段差の情報、今夏公開へ



5月10日午後、カメラを取り付けた車いすが長崎駅を出発した。コースは同駅から長崎港周辺の観光地を巡る約2キロ。道路の傾斜や段差を調査するのが目的で、長崎大学の小林透教授と県が協力して今年2月に開発した「バリアフリーストリートビュー(BFSV)」による実証実験を進めている。

BFSVはIoT(モノのインターネット)を活用し、「坂の街」特有の傾斜地や段差の情報をインターネット上で公開するシステム。車いすに搭載した衛星利用測位システム(GPS)と、衝撃感知の機能が付いたスマートフォン、さらに360度撮影可能な全天球カメラを連動させ、坂や段差の衝撃を感知する度に撮影。その写真が米国グーグル社の地図検索サービス「ストリートビュー」機能を使って、ネット上に公開される仕組みだ。傾斜や段差は、危険度によって色分けされるため、迂回路など事前の観光ルートの下調べに活用できる。

小林教授によると、今はまだ実証実験の段階だが、今夏の一般公開をめざす。小林教授は「坂の街・長崎を誰もが楽しめるよう、精度の高いものを作り上げる」と意気込む。

同実証実験は、特定非営利活動法人(NPO法人)「長崎バリアフリー推進協議会」が作成した情報サイト「長崎市バリアフリー情報」に記載された観光のモデルコースを使って行われている。今後、同サイト掲載の別のルートにも調査対象を広げる予定だ。

同協議会の安井忠行理事長代行は「長崎市は全国有数の観光地だが、坂や段差の影響で障がい者などに敬遠されてきた面もある。車いす利用者が観光を楽しめるよう、取り組みに協力していきたい」としている。

一方、斜面地に住宅が密集していることで同市の夜景は美しく、2012年、香港、モナコと共に「世界新三大夜景」に認定された。この夜景を一望できるのが稲佐山の山頂(同市稲佐町)で、毎年約50万人が訪れる。その麓と山頂を結ぶ長崎ロープウェイでは、駅に車いすの介助用リフトやエレベーターが設置されるなど、バリアフリー化が進んでいる。

バリアフリー観光をめざす坂の街の挑戦は、ようやく始まったばかり。今後、官民学の連携がますます重要になる。

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