e低所得者向けに空き家活用

  • 2015.03.19
  • 情勢/社会

公明新聞:2015年3月19日(木)付




厚労省モデル事業 大分・豊後大野市



公明党が全力で推進している地域包括ケアシステムの理念は、高齢者にできる限り住み慣れた地域で暮らしてもらうことだ。特に、所得の少ないお年寄りたちの住まいの確保と生活支援が急務なことから2014年度、厚生労働省が全国8カ所でモデル事業【注釈参照】を始めた。その一つ、大分県豊後大野市を訪ねてみた。



地域で安心の住まいを確保



大分県南西部に位置し、宮崎県との境にある豊後大野市。人口は約3万8000人で、65歳以上の高齢化率が4割に迫る。高齢化と人口減少に悩む過疎地域の一つだ。


この地に長年住む橋本次郎さん(仮名、77歳)は身寄りがなく、下宿生活をしていた。ところが下宿先が火事に遭った。さらに、大家の山口浩さん(仮名、74歳)の認知症が悪化し、医療保護入院を余儀なくされた。


そのため、橋本さんは一人取り残されることに。そんな橋本さんが昨年11月にたどり着いたのが、開設したばかりの「くすのきハウス2号」だった。


「くすのきハウス2号」は、市内で養護老人ホーム「常楽荘」などを運営する社会福祉法人偕生会が、空き家を月3万円で借りて、低所得者向けの住まいにしたもの。間取りは3DK。常楽荘の職員が毎日、食事の提供や健康管理、安否確認などを行ってくれる。


入居料は全て込みで1日1900円。支払いが難しい場合は、減免措置もある。


橋本さんの入居からおよそ1カ月後、山口さんも退院し、一緒に住み込むことになった。今では、自分たち2人で身の回りの家事をほとんどやり、ほぼ自立した生活を送る。また、当初は孤立しがちだったが、地域の祭りなどにも出向くようになり、次第に交流の輪も広がっているそうだ。橋本さんは「くすのきハウスが無ければ、路頭に迷うところだった。本当にありがたい」と語っていた。


豊後大野市内には、一戸建て住宅のくすのきハウス1、2号のほか、一時的に常楽荘の空き室を活用した3号がある。


くすのきハウス2号の外観。1号は、もともと地域のお年寄りが集まる"おしゃべりサロン"として使われていた2LDKの建物だが、家主の高齢化に伴い、閉鎖されていた。しかし、モデル事業として入居が始まると、サロンも息を吹き返した。今は週1回、十数人が集まる貴重な交流拠点だ。参加者の多くが女性のため、いつも遠慮がちな男性入居者、森田明さん(仮名、76歳)。「妻が間もなく退院してくる。ここで一緒に暮らす予定だ」と笑顔で教えてくれた。


モデル事業を始めた昨年10月以降、くすのきハウスの入居者は、3カ所合計で延べ14人に上る。同事業の中心者で常楽荘の施設長を務める浅倉旬子さんは指摘する。


「これまでの介護や医療のあり方は、施設依存が強かった。在宅での自立が難しければ、行き場は施設しかない。このモデル事業のように、住まいを確保し、ほんの少し周りが自立を支えてあげれば、在宅でも十分暮らせる人は多い。今後ますます、こうした"第二の在宅"が必要だ」


増え続ける介護保険料に頭を悩ます同市も、自立を促すモデル事業に大いに期待する。市高齢者福祉課によると、65歳以上が支払う市の介護保険料は6250円と、全国でも9番目に高いという。社会福祉法人やNPO法人との連携で、生活支援付きの住まい提供の流れを広げ、可能な限り在宅生活を継続することにより、最終的には保険料の上昇抑制につながればとの考えだ。



高齢者の主体性引き出す支援を



医療経済研究機構研究主幹 白川 泰之氏



高齢者の住まいの問題に詳しい医療経済研究機構の白川泰之研究主幹に、見解を聞いた


諸外国では、住宅政策が社会保障政策の「王道」になっているが、日本では戦後、それぞれが別の政策体系として歩んできた。ところが高齢者の貧困や孤立が深刻化するに連れ、地域包括ケアシステムを実現する上で、両者の連携が不可欠になってきた。モデル事業に見られる空き家などの福祉的活用はその好例だ。


その上で豊後大野市の特長は、"高齢者の主体性を引き出す生活支援"にある。入居者はどうしても受け身になりがちだが、地域で暮らすということは、受け身体質から脱することでもある。「生活支援は何でもしてあげるのではなく、その人の生きる力を引き出すもの」。この常楽荘の浅倉施設長の言葉に象徴される生活支援のあり方が重要だ。




【注釈】低所得高齢者等住まい・生活支援モデル事業 自立した生活が困難な低所得の高齢者らを対象に、社会福祉法人やNPO法人が空き家を活用した住まいの確保や生活支援を行う。国の支援期間は最長で3年間。14年度予算には1.2億円の事業費が盛り込まれた。15年度予算案にも1.1億円が計上されている。

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