eコラム「北斗七星」

  • 2014.10.28
  • 情勢/社会

公明新聞:2014年10月28日(火)付



童門冬二氏の作品に『偉物伝』がある。偉人ではなく、味がある江戸時代の人物を描く。黒田藩の学者、亀井南冥もその一人。福岡市の志賀島で発見された金印(漢委奴国王印)を鑑定した◆「『奴』とはけしからん。国辱だ」「鋳直して鍔にすべき」との意見も出た。朝鮮通信使とも交流した南冥は「日本は大陸や朝鮮の先進文化のおかげで発展した国だ」と虚栄心を笑った。西暦57年に後漢の光武帝が与えたとの鑑定が定説となっている◆権威や形式が重んじられた時代、南冥は自由な発想を好んだ。弟子に「読書は寝てやれ。何でも学べ」と語り、酒を嗜んだ。柔軟さが鑑定に役立つが、藩から煙たがられた。藩校の館長を解任され、72歳で焼死する。今年は金印発見から230年、没200年になる◆南冥の偽造説が流布したのも、日本人の虚栄心からか。同じ時期に同じ工房で同じ職人が彫ったとされる"姉妹印"が中国の江蘇省で見つかったのは1981年である。同省は、「山川は域を異にすれど、風月は天を同じくす」(長屋王)と信じ、5度も難破しながら九州にたどり着いた鑑真の故郷というのも縁を感じる◆謎の多い金印だが、日中交流の最古の物的証拠である。2000年の時を思えば、首脳同士が語り合えない間柄こそ変だと、南冥も思っているに違いない。(也)

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