eコラム「北斗七星」

  • 2017.10.27
  • 情勢/社会

公明新聞:2017年10月27日(金)付



電車の出発時間に間に合わないと走り始めたが足がもつれて思うように進まない。意気込みとは裏腹に年々動きが鈍くなりゆく体。年を取るとはこういうことか。気分は昔のままなのに◆木々が色づき街中にキンモクセイの香りが漂うころになると胸の奥がキュンとした青春の思い出がよみがえってくる。<金木犀の香りにふりむく坂道に 二十歳の景色 モノトーンとなる>(俵万智)◆一度は経験する淡い思い出。「恋」。その字を標語「本に 恋する 季節です!」に使い、読書週間が始まる。「初めて手にした本は、初恋の人に似ています」と言っていたのは向田邦子さんだった◆随筆『一冊の本』にある(『眠る盃』収録)。辛口のコラムニスト山本夏彦さんが「突然あらわれてほとんど名人である」と評した向田さんが取り上げていた本は、夏目漱石の『吾輩は猫である』◆小学校5年生の時に出会い、「おとなの言葉で、手かげんしないで、世の中のことを話してもらっていました」「最近になってこの本は私の中の何かの尺度として生きているという気がしてなりません」と◆さて、恋。その成就を左右するのは思いの伝え方だろうが、「本を読んでいないので自分の思いをうまく表現できない若者は多い」(曽野綾子さん)。気になる指摘である。(六)

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