eがんになっても働ける社会へ

  • 2017.09.04
  • 生活/生活情報
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公明新聞:2017年9月3日(日)付



すぐに仕事辞めないで
治療との両立へ職場で相談を
東京大学医学部附属病院放射線治療部門長 中川恵一准教授に聞く



最近のがん治療が以前の「長期入院」から「通院治療」へと大きく変わりつつある中で、がんになっても働ける社会の構築が求められています。そこで、東京大学医学部附属病院で放射線治療部門長を務める中川恵一准教授に聞くとともに、国や自治体、企業の取り組みについて紹介します。

―日本は、がんになる人が多い国です。

中川恵一准教授 そうです。男性は3人に2人、女性は2人に1人が、がんになります。年間101万人が新たにがんと診断され、37万人が命を落としています。実は、この101万人の3割が65歳以下の働く世代なのです。

それでも、診断技術や治療方法は飛躍的に進み、がん治癒率に相当する「5年生存率」は全体で約70%、早期がんに限れば95%に達しています。がんは「不治の病」とは言えなくなってきました。

ただ残念なことに、がんと診断された3人に1人が離職し、その約4割が治療する前に辞めてしまう。自営業者の場合は17%が廃業しています。がんと診断されると、1年以内の自殺率は、がん患者以外と比べて20倍になると報告されています。離職者のうち、「がんは治らない」「仕事と治療の両立は無理」と考えている人が多いのが現状です。

―がんになったら、仕事を辞めなければならないのですか。

中川 安易に辞めてはいけないし、会社も辞めさせないでほしい。今や、がん治療の多くは通院によるものです。特に、放射線治療は1回当たり数分ほどで済み、副作用もほとんどありません。欧米では、がん患者の6割が放射線治療を受けていますが、日本は3割にも満たないのが現状です。まずは、がんの症状や治療法によっては、働き続けられる可能性が高いことを知っていただきたい。

―がんになったら、どう行動すべきでしょうか。

中川 本来であれば、がんになる前に、がんのことを正しく知っておいてほしい。その上で、仕事を辞めるといった重要な意思決定をすぐにしないでください。これは、家族など周囲の人も同じです。がんの告知を受けると、2週間ほど強い抑うつ状態に陥り、冷静な判断が難しくなる人が多いからです。

また、言い出しづらいかもしれませんが、職場において上司や産業医、保健師など相談相手を見つけ、治療と仕事の両立支援【表参照】について話し合うことも重要でしょう。

正しい情報 家族で共有


―中小企業や小規模事業者の場合、治療のための時間を取りにくいなど困難が少なくありません。

中川 事業規模が小さくても、経営者や従業員の、がんに関する意識が高いほど、就労支援が進んでいる傾向があります。具体的には、時間単位勤務の導入をお勧めします。時短勤務を実施している中小企業のがん患者の復職率は、大企業とほとんど変わらないとの調査結果もあります。

―家族は、どうサポートすればいいですか。

中川 家族も患者を支えるチームの一員です。がんの正しい情報を共有してほしい。家族の不安感を和らげることにもつながります。患者本人は、時に判断を誤ることがあります。家族が医師と相談し、調整役を果たすことも大事です。

―公明党は、がん対策に全力です。

中川 がん対策基本法の制定をリードしたのは公明党です。また、公明党は地方に根を張っています。両立施策について、生活現場に近い地方議会で議論されることを望みます。

政府など 「がんとの共生」基本計画に


政府や自治体では、治療と仕事が両立できる環境をめざし対策を本格化させています。1億総活躍社会の実現へ、「働き方改革」を進める政府は昨年、企業向けに治療と仕事の両立実現に関するガイドラインを策定。労働者や主治医、企業との間で支援の進め方や仕事内容などを個人ごとにつくるよう求めています。

こうした中、国が取り組むがん対策の方針となる「第3期がん対策推進基本計画」の素案で、「がんとの共生」が掲げられました。具体策として、医療機関で治療と仕事の両立プランの作成支援を行う専門家の育成・配置が盛り込まれています。

一方、東京都は今年6月、がんや難病と闘う患者を新たに採用するほか、休職していた人を復職させた上で継続して働けるよう勤務体系や休暇制度などで後押しするなど、治療と仕事の両立を後押しする企業に、1人当たり最大60万円支給する制度をスタートさせました。さらに、両立を積極的に支援している優良企業への表彰も行っています。

企業 柔軟な勤務・休暇制度を展開


がんになった人が、治療と仕事を両立するケースについて、国立研究開発法人・国立がん研究センター編「がんと就労白書」では事例を紹介しています。

例えば、IT企業でシステムエンジニアとして働いてきたTさんは、会社の健康診断から大腸がんが見つかり休職し、手術を受けました。産業医などの面談を経て復職し、現在、勤務先で週2回、無料でカウンセリングを受けながら働いています。Tさんは"がんについて、分かってくれている人と気軽に話せる場所があることは、とてもありがたい"と感じるそうです。

患者をサポートする企業側の取り組みが広がっています。大手商社の伊藤忠商事株式会社では、柔軟な勤務・休暇制度などを整備。8月に発表した支援策では、40歳以上の社員に5年ごとのがん検診を義務付けました。

そのほか、理化学機器製造業の田中科学機器製作株式会社では、全従業員のがん検診受診のほか、精密検査対象者への受診率100%を達成。床材料製造業の田島ルーフィング株式会社では、全国の各事業所拠点の健康管理担当者を対象とした、がんセミナーを開いています。

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