eコラム「北斗七星」

  • 2017.08.16
  • 情勢/社会

公明新聞:2017年8月16日(水)付



新郎新婦が挙式を終え新婚旅行に旅だった夜、互いの父親が初めて酒を酌み交わした。二人の年齢は近かったものの、生まれ育った環境は東京と九州と離れていたし、性格も極端に違っていた。職業や趣味にも何ら共通点はなかった◆だから、「話題のない堅物の親父に、果たして場を持たせられるのか」と、新郎は案じたものである。ところが、意外にも二人の会話は大いに盛り上がったのだ。なぜなら、父親同士には「戦地へ送られた」という生涯忘れようにも忘れられない共通の思い出があったからだ◆新郎の父は南方へ出兵。そこで捕虜となり、多くの仲間を飢えや感染病で失っていた。新婦の父は北へと送られた。そして長くシベリアに抑留されることになる。互いの戦争体験と、焼け野原となった戦後の日本でどう生き抜いたかについて、息子と娘の門出の日に語り尽くすことになったのだ◆その結果、二人の父親は酒に酔いつつも「戦争は国による犯罪です。犠牲になるのは名も無き庶民です」「もう二度と戦争など起こしてはなりません。子や孫を巻き込んではならない」と結論づける。北斗子の父親と義父の思い出の一夜である◆いずれもすでに世を去った。わが家で体験を通し戦争の恐怖を語れるのは、空襲の中を逃げ惑った実母と義母だけである。(流)

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