e世界遺産 保護と観光の両立、日本は貢献を

  • 2017.07.12
  • 情勢/国際

公明新聞:2017年7月12日(水)付



福岡県の「宗像・沖ノ島と関連遺産群」を世界文化遺産に登録することが、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会で決まった。日本の5年連続の世界遺産登録という快挙を喜びたい。
文化遺産と自然遺産を合わせた国内の世界遺産は、今回で21件目である。大阪府の「百舌鳥・古市古墳群」など世界遺産登録への期待が高まっている文化財も多い。外国人観光客が増加する中、世界遺産が増えることは日本の魅力向上にもつながるだろう。
ここで心に留めたいのは、世界遺産活動が曲がり角を迎えているとの指摘である。世界遺産の登録数が世界的に急増し、遺産管理のあり方が改めて問われている。ユネスコは各国に遺産の適切な保護を求め、世界遺産への認定基準も厳しくする方向にあるという。
実際、今年の世界遺産委員会では、オーストリアのウィーン歴史地区が存続の危ぶまれる危機遺産になった。バロック様式の宮殿や庭園の価値が認められて世界遺産となったが、高層ビルの建設計画が持ち上がり、景観を損なう懸念が強まったためだ。
ユネスコはウィーン市に改善を求めており、状況によっては世界遺産リストから外される可能性もある。遺産の価値を守ることの難しさを示す一例といえよう。
とりわけ各国が頭を悩ませているのが、遺産保護と観光利用の両立だ。世界遺産に登録されれば観光客が増加し地域経済も潤うが、遺産にダメージを与える危険性も高くなるからだ。
この問題の解決について、日本には世界の手本となる取り組みがある。2005年に世界自然遺産に登録された北海道の知床である。
遺産登録を契機に急増した訪問者によって貴重な植物が踏み荒らされたり、観光客がヒグマと遭遇する危険が高まった。このため国や北海道、地元関係者らで協議を重ね、観光客の入場を制限する地域を設けて自然保護と安全を確保する一方、誰もが知床の大自然を満喫できるよう高架木道を整備した。
こうした取り組みを各国へ発信しながら、人類が共有すべき世界遺産を預かる国としての責任を果たしたい。

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