eコラム「北斗七星」

  • 2017.05.15
  • 情勢/社会

公明新聞:2017年5月15日(月)付



"奇跡のドラマ"を見た思いがした。世界で唯一、秋田県の田沢湖に生息し、絶滅したはずの淡水魚・クニマス。それが遠く離れた山梨県の西湖で発見され、人工孵化を経て約70年ぶりに秋田へ里帰りしたのだ◆かつて田沢湖はクニマスやヤマメなど多くの魚が生息する豊かな湖だった。事態が暗転したのは1940年。電源開発などのため、強酸性の玉川からの導水を開始。水質が悪化し、クニマスなどの魚類は死滅した◆ところが7年前、西湖で生息を確認。発見の立役者はさかなクン、検証したのは魚類学者の中坊徹次氏だ。記録には、西湖に卵が送られ孵化・放流されたとある。水深は田沢湖の6分の1ほど。環境に適合しつつ、交雑することなく命を継いできたのだ◆ちなみに、サケ科に属するマスの語源には、「味がサケに勝るからマスという」(加納喜光著『魚偏漢字の話』中央公論新社)との説も。特にクニマスは魚肉が柔らかく美味。地元では高級魚として正月や病気の時に食べていたと聞く◆今回の里帰りまでには、関係自治体に加え、漁業協同組合の尽力や「国鱒探し」キャンペーンの展開など多くの人が関わってきた。クニマスは帰ってきたが、環境が改善されない田沢湖では生きられないという。一度失ったものを取り戻すには、莫大な労力と時間がかかることを肝に銘じたい。(田)

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