e施行70年 憲法とどう向き合うか

  • 2017.05.08
  • 情勢/解説

公明新聞:2017年5月1日(月)付



北側一雄 公明党副代表に聞く



国民の祝日に関する法律は、5月3日を「日本国憲法の施行を記念し、国の成長を期する」ための憲法記念日と定めている。今年は1947(昭和22)年5月3日の施行から70年になる。この憲法の下、日本は戦後復興を成し遂げ、平和国家、民主国家として世界の信頼を得てきた。この歴史を踏まえ、これから憲法とどう向き合えばいいのか。公明党の北側一雄副代表に聞いた。


戦後民主主義の進展に貢献し広く国民に浸透


――日本国憲法は5月3日で施行70年を迎える。憲法をどう評価するか?


北側一雄副代表 憲法は戦後民主主義の進展と新秩序の形成に大きく貢献し、広く国民にも浸透した優れた憲法だと公明党は評価しています。

その上で、施行当時は想定されていなかった課題が出て来ているのであれば、憲法に新しい規定を設けていくことについても、しっかり議論をしていきたい。


――一方で、「憲法は占領下で"押し付け"られた」との批判もまだある。


北側 終戦後、日本の占領統治に当たった連合国総司令部(GHQ)の関与があったことは否定できません。また、極東委員会など戦勝国による外的圧力もありました。

1946年2月13日に、GHQからいわゆるマッカーサー草案が日本側に交付され、これを基に日本政府の憲法改正草案が作成されたことを捉えて、「占領下で作られた"押し付け憲法"であり、自主憲法の制定が必要」との意見が一部にあります。

しかし、私たちはこうした考え方には賛成できません。

その理由はこうです。憲法改正草案は、46年4月に実施された普通選挙による戦後初の衆院議員選挙の後に召集された国会で審議され、数多くの修正を受けた上で同10月に圧倒的多数で可決されています。

この国会審議について当時の吉田茂首相は、著書『回想十年』の中で、国会審議には何らの拘束もなく、「憲法問題に関する限り、一応当時のわが国の国民の良識と総意が、あの憲法議会に表現された」と述べています。

また、国会での可決直後の46年10月17日、極東委員会は憲法制定が真に日本国民の自由な意思によるものだったかを確認するため、日本国民に再検討の機会を与えるべきである旨を決定し、GHQも憲法施行後1、2年以内の憲法改正の検討を提案しました。しかし、政府は改正の必要なしとの態度でした。

さらに、憲法の下で多くの重要な法律、例えば、皇室典範、国会法、内閣法、地方自治法などが改正されました。どれも戦後民主主義の基礎となった法律であり、"押し付け憲法"で果たしてこのような基本法制が整備されるでしょうか。

そして何よりも憲法は国民の広い支持を受けてきました。今や"押し付け憲法"という主張自体、意味がないと言わざるを得ません。


「3原理」はこれからも堅持。改正は「加憲」で


――近年、憲法改正が話題になっている。公明党の基本的な考え方は?


北側 「国民主権」「基本的人権の尊重」「恒久平和主義」の憲法3原理は、人類普遍の理念であり、これからも堅持されなければなりません。

その上で、制定当時に想定されていない課題や、不都合なところがあれば、憲法改正について論議します。憲法も規範ですから絶対変えてはならないということはありません。

改正について公明党は、従来から「加憲」という立場をとっています。これは、憲法3原理はあくまで堅持しながら、必要となる新たな条項を付け加えていく方法です。

憲法改正の国民投票法は、個別の改正案ごとに一人一票で賛成または反対の文字を丸で囲む投票方式となっています。

したがって、日本国憲法の全体、または数多くの項目の改正案を一括して国民投票に付すことはそもそも想定されていません。そのため、現実的にも「加憲」という方法で憲法改正論議を進めるしかないと考えられます。


――3年前の改正国民投票法の成立によって、国会はいつでも憲法改正の発議ができる段階になった。改正論議はどう進めるべきか?


北側 改正国民投票法の施行前は総論としての憲法改正論でした。しかし現在は「どこをどう改正するのか」という各論の段階になっていると思います。

憲法改正は大変な労力と時間が必要な、いわば国の大事業です。頻繁にはできません。そのため、憲法改正の必要性について優先順位の高いテーマ、すなわち、改正しないと不都合がある分野の議論を優先させるべきだと思います。

具体的に言うと、まず、現在の憲法解釈で十分に間に合っているところは優先順位が高いとは思いません。また、法律レベルでしっかり整備され機能している分野も同様です。

次に、国民投票で賛成が得られるように、国民の理解を得ながら国会審議を進める必要があります。

さらに憲法改正案の発議には、両議員の総議員の3分の2以上の賛成が必要なため、できるだけ多くの政党間で合意形成をすることが大事です。


憲法審では優先順位の高いテーマから議論を


――憲法改正論として想定されるテーマは?


北側 現時点で既にコンセンサスができている具体的な改正項目があるわけではありません。また現在、国会で議論されているテーマもそれぞれ難しい問題を抱えています。

例えば、大災害など緊急事態における国会議員の任期延長問題があります。

仮に国政選挙の直前に大災害が発生し選挙が実施できない地域が想定される場合どうするか。特別に任期を延長して選挙を延期しようにも、国会議員の任期は憲法で定められているため、法改正では延長できません。そこで、憲法を改正し、緊急事態では国会議員の任期延長を認めてはどうかとの議論です。

しかし、緊急事態とは何で、誰が、どのような手続きで決定するのかといった重要な論点が多くあり、簡単ではありません。党内でもしっかり議論を深める必要があります。

また、教育無償化のために憲法改正をすべきとの主張があります。しかし、財政の裏付けを確保できるのか、法律によって無償化政策を進めることも可能だとの意見もあります。

憲法9条については、自衛隊の存在や国際貢献などを明記すべきとの議論があります。公明党は戦争放棄、戦力不保持、交戦権否認を定めた9条の1項、2項は維持し、もし必要ならば新たな条文を追加するとの考え方です。

ただし、昨年施行された平和安全法制によって、9条の下で日本を守るために必要な「自衛の措置」の範囲が明らかにされ、それによって当面の日本の安全は守られる体制が確保されました。また、自衛隊もすでに多くの国民から支持されており、当面の9条改正は必要ないと考えています。

さらに、地球環境保全の責務などの規定を求める意見もあります。

両院の憲法審査会では、優先順位の高いテーマを探る努力が求められます。

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