e介護予防は地域が主役

  • 2017.03.30
  • 情勢/解説

公明新聞:2017年3月30日(木)付



4月から総合事業に移行



「要支援」の人が利用する介護サービスの一部が4月から、市区町村の「介護予防・日常生活支援総合事業」(総合事業)に完全移行する。地域の実情に合わせた多様なサービスの提供が期待される中、先行する自治体の取り組みを紹介するとともに、医療経済研究機構の服部真治研究員に聞いた。


住民運営のデイサービス


補助金で「互助」活動を支援 東京・世田谷区

「毎週ここに来るのが本当に楽しみ」と話す70代の女性が通うのは、東京都世田谷区内にあるUR賃貸住宅の集会所。中に入ると、近隣の高齢者らが集まり、体操や食事、おしゃべりなどを楽しんでいた。この"集いの場"を週1回、運営するのは、地域住民らによるボランティア団体「きららサロン」(湯山七海代表)のメンバーだ。

世田谷区は2016年4月から総合事業をスタート。同サロンの活動はその一つだ。要支援者らを対象とする住民主体型「地域デイサービス事業」として実施されており、区から出る補助金(1回8500円)を運営経費に充てている。1回当たり約3時間の開催で、利用料は昼食代などを含め800円。

湯山代表によると、利用者の状態は目に見えて改善し、つえがなくても歩けるようになったり、以前は残していた食事を完食できるまで健康的になった人もいるという。「利用者が元気になっていく姿がうれしい」と湯山代表は語る。

総合事業は、国の統一基準に基づく介護保険サービスとは異なり、自治体の裁量で内容や利用料を設定できるのが特徴だ。同区の地域デイサービス事業では、実施要件の一つに、区が定める研修受講者の配置を求めており、介護福祉士などの専門職に限らず、ボランティアの活用も認めている。

区介護予防・地域支援課の河島貴子係長は、「地域で支え合う『互助』の活動を支援していきたい」と話している。


講師派遣し体操教室


千葉・流山市

地域の既存施設を生かした介護予防の拠点づくりに力を入れている自治体もある。

15年4月から総合事業に移行した千葉県流山市では、空き家などを活用した「高齢者ふれあいの家」を中心に取り組む。同施設は現在、市内に20カ所あり、地域住民やNPO法人などが運営する。

活動内容は施設ごとで異なるが、囲碁や将棋、茶話会などが行われ、要支援者を含め高齢者から人気を集めている。当初、市はこれらの施設が介護予防の拠点になると考え、従来の活動内容に介護予防メニューを加えられないか、運営者らに提案してきた。

その結果、同市は14年度から、県や市が開く介護予防の指導者を養成する講習会の修了者を介護度重度化防止推進員(通称「ながいき応援団」)として、同施設などに派遣する介護予防教室を開始した。16年4月からは「ながいき100歳体操」の普及に取り組んでいる。

3月23日、市内で活動する「ふれあいの家・ふたば」が企画する介護予防教室には、ながいき応援団の柏﨑元明さん(69)が派遣されていた。「元気になってもらおうと取り組んでいるが、自分自身が一番、元気をもらっている」と、柏﨑さんは笑みを浮かべていた。

同市介護支援課の菊池義博課長は、「高齢者ふれあいの家や自治会館などを活用し、身近な場所で介護予防教室に参加できる仕組みをつくりたい」と語っている。


支え手育む街づくりを


医療経済研究機構研究員 服部真治氏

75歳以上の人口は、2025年に約2200万人となり、10年に比べて1.5倍増える。一方、20~64歳の労働力人口は約1000万人減り、介護人材が不足するのは明らかだ。既に、介護事業者が要支援者を対象とした予防給付から撤退し、サービスが受けられなくなった地域も出始めている。

これに対応するには、介護予防を充実させて支えられる側を減らし、支え手となる地域住民や元気な高齢者を増やすことが重要となる。これが総合事業の基本的な考え方だ。一部では「要支援切り」と批判されているが、むしろ、これを防ぐための施策と言える。

サービスを提供する側となった自治体は、住民に制度の意義などを丁寧に説明する機会を多く設けることが大切となる。また、地方議会、そして議員には正しい理解を広げる役割を担ってもらいたい。

総合事業は地域づくりとも言える。将来を見据え、支え手を育む街づくりを進めてほしい。

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