e働き方改革に挑む中小(下)

  • 2017.03.23
  • 情勢/解説
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公明新聞:2017年3月23日(木)付



東京ライフ・ワーク・バランス認定企業
女性の活躍促進



今回は、東京ライフ・ワーク・バランス認定企業のうち、女性の活躍促進に力を入れる株式会社トーリツ(鈴木恵里子社長)の取り組みを紹介するとともに、独立行政法人「労働政策研究・研修機構」主任研究員の池田心豪氏に、中小企業の働き方改革のあり方について聞いた。


職場定着へ制度に工夫


子育て、介護との両立支える

株式会社トーリツは1985年の創業以来、訪問介護や通所介護、居宅介護支援などの事業を展開している。当時は従業員30人ほどで、その大半が子育て真っ最中の女性ばかりだったという。鈴木社長が「だからこそ、創業当初から女性が安定して働き続けられる職場づくりを進めてきた」と語るように、同社の生活と仕事の両立をめざした取り組みは多彩だ。

例えば「社内保育」制度を設け、1歳児から6歳児まで保育所に入れない社員の子どもを預かるほか、「代休貯金」制度により、休日出勤の時間を"貯金"して、平日の日中に私用で外出する際に15分単位で使用できるようにしている。さらに、有給休暇を取るほどではないが、予防接種など「ちょっとした用事で1時間ほど外出したい」というニーズに対応した「中抜け」制度もある。

居宅介護支援・訪問介護事業部で次長を務める矢口直美さん(46)は2002年4月、パートタイムの登録ヘルパーとして入社し、3カ月後に正社員となった。介護事業所の所長だった04年12月中旬に育児休暇を取り、次女を出産。その後、職場に復帰し、仕事と子育てを両立してきた。

仕事柄、勤務も不規則となりがちだが、同社の「中抜け」や「代休貯金」制度を活用し、子どもたちの学校行事にも参加することができた。

現在、居宅訪問介護サービス部門の責任者として活躍する矢口さんは、「子育てをしながら、管理職になれたのは、働きやすい勤務形態と上司や仲間の理解があったからです」と語る。

同社は事業拡大とともに、従業員数も279人に増えた。最近では育児や介護など生活の変化に合わせて、多様な働き方を希望する人が増えている。このため、同社では本人の申し出があれば、上司に相談の上、承認が得られ次第、雇用契約を結び直すといった柔軟な対応を取っている。

こうした努力により、育児休業を取得した人は100%復職。創業以来、一度も経常利益で赤字を出したことがない。鈴木社長は「どんな中小企業でも、できるところからワーク・ライフ・バランスに取り組むことは可能だ」と語る。


人材確保の視点が重要


独立行政法人「労働政策研究・研修機構」主任研究員 池田心豪氏

ワーク・ライフ・バランスの取り組みは、経営の負担になる福利厚生と捉えるのではなく、高度なスキルを持つ人材を確保し、定着につなげていくための経営戦略という視点が重要だ。

特に、人手不足に悩む中小企業は、できるところから取り組めばいいと思う。中小企業は大企業と比べ、社長と現場社員との距離が近いこともあり、経営方針の変更に対して小回りが利く。他社よりも早い取り組みで成果を上げれば、採用活動でも応募者にアピールできる。

ポイントは、まず「分業化」の推進だ。例えば、1人の社員が営業と営業事務をしているように、仕事の分担があいまいだと、業務内容が重複し、長時間労働につながりかねない。業務内容を一つ一つ整理して切り分ける必要がある。次に、1人で複数の業務ができる能力を身に付ける「多能工化」の推進だ。これにより、社員が育児や介護で休暇を取得しても業務をカバーしやすくなる。

中には「自分の会社では導入できない」と感じる経営者もいるかもしれない。しかし、考えてみてほしい。過去1年間で出産や育児、親の介護などに直面した知人はゼロという人はいるだろうか。共働きも今や珍しくない。仕事と介護、あるいは育児との両立は避けて通れない問題になっているのである。経営トップには、長時間労働の是正も含め、十分な議論と検討を促したい。

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