eコラム「北斗七星」

  • 2017.03.03
  • 情勢/社会

公明新聞:2017年3月3日(金)付



時代とともに形を変えつつ浸透した風習は、長く命脈を保つものだ。きょう3月3日は桃の節句。別名を「上巳」といい、5月5日の「端午」などと並ぶ、五節句の一つだ◆桃の節句の歴史は古い。飛鳥時代からある行事で、中国から伝来したものらしい。山本健吉著『基本季語五〇〇選』(講談社学術文庫)によれば、中国では上巳の日に水辺に出て災厄を払う行事があり、後に水の流れのある庭園で杯が流れ過ぎるまでに詩歌を読む曲水の宴が催され、桃の酒を飲む風習が生まれたという◆日本でもこの風習は上流階級にあったが、中身が変化。平安時代の『源氏物語』には、厄払いの道具とした紙の人形を舟に乗せて流す様子が描かれている。女の子の節句として、観賞用の人形を盛んに飾るようになったのは、各地方でひな人形が作られ町民に浸透した江戸時代からだ◆ちなみに、節句を「節日」と表現し、行事に位置付けたのは「大宝律令」(701年)だ。百済滅亡など緊迫する東アジア情勢の中、朝廷は律令で儀礼・行事を統一して政権を安定させ、国家を守ろうとした。節句指定にも政治的意図があったのだ◆時の流れとともに、人間の思惑はそぎ落とされ、変化に応じて根を張ったものだけが残る。政略が渦巻き、かつてないほど目先の利害でぶつかる現代だからこそ、心したい原理だろう。(田)

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