e進む建設職人の保険加入

  • 2017.01.06
  • エンターテイメント/情報
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公明新聞:2017年1月6日(金)付



雇用保険、健康保険、厚生年金
国交省が12年度から本腰



多くの建設職人が病気や失業、老後などへの備えとなる社会保険に加入していない問題で、国土交通省は2012~16年度を集中対策期間と定め、業界団体と共に加入対策に取り組んできた。期間終了まで残り3カ月を切り、着実に改善が進む現状を追った。


企業95% 労働者72%にアップ


法定福利費の確保策など奏功

建設業の場合、労災保険は原則として元請けが一括して加入するのに対し、雇用、健康、年金の各保険は企業あるいは職人が個々に加入する。このため、最近まで企業による加入逃れが横行していた。

公共工事に携わる企業や労働者を対象にした「公共事業労務費調査」によれば、11年10月時点で3保険(雇用保険、健康保険、厚生年金)への企業別加入率は84%、労働者別加入率は57%の状況だった。

そこで国交省は12年度から、未加入対策に本腰を入れた。

同年5月、大手建設会社でつくる一般社団法人・日本建設業連合会(日建連)をはじめ、84の関係団体などからなる「社会保険未加入対策推進協議会」(蟹澤宏剛会長=芝浦工業大学教授)を設置。業界挙げて取り組む体制を整え、17年4月までに企業単位で加入率100%、労働者単位で製造業並みの90%程度との目標を掲げた。

その上で国交省は、5年ごとに行われる建設業の許可更新時などで3保険への加入の確認と指導を徹底した。

未加入企業に対しては、国交省直轄工事の元請けと1次下請けから排除する一方、下請指導ガイドラインを策定し、民間企業にも遅くとも17年度以降は未加入企業を下請けに選定しないことなどを求めた。

また、企業が法定福利費(会社が負担する社会保険料)を確保できるよう、直轄工事の予定価格に必要となる額を反映。民間工事を含め、専門工事業種ごとに法定福利費を内訳明示した標準見積書を作ってもらい、下請けから元請けへの提出を促してきた。

これに対し、「下請けから明示された法定福利費は尊重している」(山本徳治・日建連常務理事)と、元請けの各団体も前向きだ。

さいたま市で防水工事業などを営む株式会社躍進の笠井輝夫・代表取締役社長も「これで私たち下請けも仕事がしやすくなってきた」と語る。同社の場合、法定福利費は社員給与の15%程度。発注元から厳しい値引きを迫られれば、法定福利費を確保するのも一苦労だったという。

これらの取り組みにより、最新の公共事業労務費調査(15年10月時点)では、企業別加入率が95%、労働者別加入率が72%まで上昇している。

国交省は17年4月から、直轄工事からの排除対象を2次下請け以下にも広げる予定で、「引き続き気を緩めることなく取り組む」(同省建設市場整備課の担当者)としている。

社会保険の未加入対策については、公明党も積極的に推進してきた。13年6月に加入促進を求める提言を国交省に申し入れたほか、国会で何度も取り上げてきた。こうした中、太田昭宏前国交相、石井啓一国交相(いずれも公明党)の下で強力に対策が進められてきた。


体質、徐々に改善
蟹澤宏剛・芝浦工大教授

けがをして働けなくなっても、社会保険に入っていないため、生活保護に頼らざるを得ない――。そんな建設業界の体質は、この5年で徐々に改善してきた。とはいえ、社会保険への加入は世間では当たり前のこと。若い人にとって魅力的な職場に生まれ変わるための最低限の条件だ。

今年8月から、国民年金や厚生年金を受け取るのに必要な受給資格期間が25年から10年に短縮される。こうしたことも追い風に、建設業界の関係者にさらなる加入促進に取り組んでもらいたい。


問題の背景


若者離れに拍車掛ける

社会保険の加入逃れは、建設業界全体にも大きな課題をもたらしていた。

その一つが、法律を守らない未加入企業が受注競争では"有利"になるという矛盾があった。未加入企業の方が法定福利費を支払わなくて済む分、低価格で工事を受注することが可能になるのだ。

さらに一人親方の増加にもつながっていた。一人親方は個人事業主扱いのため、企業の負担はない。そこに目を付けた企業が社員との雇用関係を解消し、一人親方の身分にした上で、新たに請負関係を結ぶのだ。

こうした不健全な競争環境に加え、最低限の福利厚生である社会保険への未加入企業の多さが若者の建設業離れに拍車を掛けている。

日建連によると、高齢化により「今後10年以内に100万人規模の大量離職時代が到来する」という。担い手不足は技術や技能の承継にも影を落としている。

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