e児童虐待対策 社会から孤立する親子を救え

  • 2016.09.30
  • 情勢/解説

公明新聞:2016年9月30日(金)付



「お母さんありがとう。お母さん大好き......」。4年前、広島県府中町で母親に虐待されて死亡した小学5年生の女児が生前、母に宛てた手紙の一節だ。思いを寄せる親によって命を奪われる無念さを思うと、あまりにやるせなく、胸が痛む。

わが子への虐待を伝えるニュースが後を絶たない。2015年度に全国の児童相談所(児相)が対応した虐待件数は、ついに10万件を超えた。悲劇の増加に歯止めをかけなければならない。

あす10月1日、児童相談所の体制や権限強化を柱とした改正児童福祉法と改正児童虐待防止法が施行される。

改正のポイントは、児相に児童福祉司や医師、弁護士など専門家の配置が義務付けられたほか、虐待が疑われる家庭に強制的に立ち入り調査する「臨検」の手続きが簡素化されたことだ。

児童虐待による死亡事件の中には、もっと早く子どもを保護していれば助かったケースが少なくない。しかし、児相が子どもを保護する上でカギとなる「臨検」は、手続きが煩雑な上に保護者の強い抵抗に遭うことから、実際に行うには難しい面がある。今回の改正法施行によって、子どもの命を守るための手立てが強化されたのは当然だろう。

児童虐待が増え続ける背景の一つに、家族形態の変化が挙げられている。3世代同居が当たり前だった時代は、子育ての負担を祖父母が肩代わりすることが容易だった。ところが今は、核家族化が進んだ上に地域との関わりも希薄になりがちだ。身近に相談する相手もなく、不安や悩みが募った揚げ句に虐待に至ることをどう防ぐか。

何といっても社会からの孤立を防ぐことだ。改正法では、子育て家庭を支援する拠点を整備するよう市区町村に努力義務を課している(来年4月から)。ひとり親家庭など孤立しがちな家庭への公的な支援は、虐待防止に不可欠であり、政府は自治体による拠点整備を後押しすべきだ。

また、虐待死に至ったケースの多くは「望まない妊娠」や「若年(10代)妊娠」など複雑な事情が背景にあるといわれている。子育てに悩む母親に寄り添うような支援策の拡充も求められる。

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