e熊本地震 被災地の夏を追う

  • 2016.08.17
  • 情勢/社会
[画像]メインイメージ

公明新聞:2016年8月15日(月)付



法律支援
的確な助言に「光見えた」
制度活用へ潜在ニーズ掘り起こしを



真夏の日差しが容赦なく照り付ける熊本県大津町の仮設役場前。熊本地震被災者の無料法律相談に応じる「法テラス号」から降りてきた矢野進さん(77)は、「弁護士と話せて良かった」と安堵の表情を浮かべた。

4月16日未明の本震で大津町は、震度6強の揺れに襲われた。3800戸以上の家屋が被害を受け、町役場も破損。地震から4カ月が過ぎた今も、避難所2カ所に約15人が身を寄せる。

被災者が直面する法律問題は多岐にわたる。落ちた屋根瓦が隣家を損傷させるといった個人間トラブルに不動産の賃貸借をめぐる紛争など、専門的な知識が必要となる場面は枚挙にいとまがない。

矢野さんも震災を機に遺産相続に関する判断を迫られた。役場に相談しても決断に至らず、その足で法テラス号へ。弁護士からの「今回のケースは焦らなくて大丈夫」とのアドバイスに胸をなで下ろした。

この日、同じく相談に訪れた同町の加賀咲恵さん(59)=仮名=は本震で自宅が半壊。住宅ローン600万円が未返済な上、地震後の大雨被害も重なり、改修には1000万円以上必要となった。

弁護士から、預貯金や義援金を残したままローンの減額や免除が受けられる「被災ローン減免制度」を紹介された加賀さん。「やっと光が見えた、制度を利用してみたい」と明るい表情で語った。

被災地では、加賀さんのように「生活再建に向けた支援制度を知らずにいる人が少なくない」(法テラス本部の杉岡麻子扶助一課長)。過去の震災では発災から2、3年後、被災生活の糧となる義援金や支援金を借金返済に充てたがゆえの破産が増えた。義援金などは返済に充てる必要がなく、破産手続きをしても手元に残せるお金だ。周知が徹底されていなかった。

被災地では義援金の支給も進み、自宅の"応急修理"に入る例が増えてきた。自治体の多くは、本格化する被災者の生活再建に備え無料法律相談を引き続き実施する方針で、関連するトラブルの解決や支援制度の十分な活用へ、「専門家の的確なアドバイスは大きな力になる」(熊本市生活再建支援課)と期待は高い。

被災者に寄り添い続ける弁護士や司法書士。今後は土地の境界に関する複雑な紛争も予想されるが、法テラス号で法律相談に当たる有元大弁護士は「被災者支援のモデルをつくる気概で頑張る」と意気込む。

幸い被災地では、法テラスや弁護士会、各自治体など無料法律相談窓口が数多く用意されている。あとは、被災者自身も気付かない潜在的な法律支援のニーズをどう掘り起こすのか。支える側の知恵が求められる。=熊本地震取材班


【法テラス号】
  日本司法支援センター(法テラス)が運行し、各地を巡回する相談車両。東日本大震災でも活躍した。5月成立の改正総合法律支援法に基づき法テラスは、熊本地震の被災者に収入などに関係なく無料法律相談を実施している。

月別アーカイブ

iこのページの先頭へ