eコラム「北斗七星」

  • 2016.08.01
  • 情勢/社会

公明新聞:2016年7月30日(土)付



ナチス・ドイツが大虐殺したのは、人間だけではなかった。意にそぐわない思想を著した書籍は、自国や占領地で焼き払い、その数は1億冊を超すという。一方、米国はこれに対抗、1億4000万冊の著作物が海を越えて戦場の兵士たちに届けられた◆時の米大統領ルーズベルトは、「いかなる人間もいかなる力も、思想を強制収容所に閉じ込めることはできない。この戦いにおける武器は本である」と声明を出し、さまざまな作品を送り続けた。新聞社やラジオ局、そして多くの市民も協力を惜しまず、世界を戦争と破壊の惨禍に導いた思想を葬る原動力となった。「戦地の図書館」(東京創元社)で知った◆米大統領選挙の本戦に臨む民主、共和両党の役者が揃った。戦後の米国は世界の安全保障を請け負う一方で、自由貿易によって国境を越えたつながりを強め、自国を開放して移民を受け入れてきた◆しかし、米国が旗振り役を担ったグローバル化の負の側面は、今や不満や怒りとして人々の間に鬱積し、社会に亀裂さえもたらしている。排外的なナショナリズムや民族主義にあらがってきた国にふさわしくない声も、聞こえてくる◆かつて、自由を守る戦いで国民が一つになった米国。地球規模で揺らぐ寛容や多様性という価値観を守れるか。大統領選は、その真価が問われる。(明)

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