eコラム「北斗七星」

  • 2016.06.16
  • 情勢/社会

公明新聞:2016年6月16日(木)付



「下町ロケット」などの原作者で、今やテレビドラマの"大ヒットメーカー"と称される作家・池井戸潤氏。2013年にNHKでテレビドラマ化された「七つの会議」も見応え十分だった◆原作(集英社文庫)は8つの短編からなる物語。パワハラ事件で更迭された中堅電機メーカーのエリート営業課長の後任に突然任命された中年サラリーマンを主人公に、会社組織の不祥事に巻き込まれていく社員の群像劇だ◆第2話「ねじ六奮戦記」では、ねじ製作会社を引き継ぐことになった男性を中心に、下請けたたきに遭う中小企業の悲哀が綴られる。普段、意識していないが身の回りを見るとねじが、あらゆるところに使われていることが分かる。安全な生活は、形あるものをしっかり固定しているねじが支えていると感じた◆そのねじ一つ一つを世に送り出す企業の労苦を、作者はていねいに描くとともに、"たかが"ねじとみた企業が、取り返しのつかない事態に陥っていく様も克明に記していく。「大企業を儲けさせるために下請けが赤字になる。そんなことをしていたら日本のモノ作りは根底からだめになる」と警告する◆「信頼のモノ作り」という"日本の売り"を傷つける事件が後を絶たない昨今。誰もがこの指摘を心配している。新社会人にぜひ一読を薦めたい書だ。(爽)

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