eコラム「北斗七星」

  • 2015.12.25
  • 情勢/社会

公明新聞:2015年12月25日(金)付



年賀状の作成に難渋するこの時期は、文豪ヴィクトル・ユゴーの手紙を思い出す◆波瀾万丈の大長編「レ・ミゼラブル」の発刊を終えて海外旅行に出かけた彼は、自著の販売状況が気になり、出版社に「?」と書いただけの便りを出す。返信は「!」だった。これは、「売れ行きはどうか?」と聞かれて、「素晴らしい売れ行きです!」と知らせたものだ。世界一短いやりとりで気持ちを伝えた名文家には、ただ脱帽するしかない。「文豪おもしろ豆事典」(塩澤実信 北辰堂出版)で知った◆非常に優れた文章を形容する「一字千金」という言葉がある。中国の秦の時代に諸家の説を集めて書物を編集した大商人が、その本の文章を一字でも添削できたら、懸賞金として千金を与えると述べた故事に由来する。文筆に携わる者としては、うらやましい限りの豪語ぶりだ◆戦後70年の今年は、日本の歴史や世界との関係について議論を深める機会が多かった。新聞は、それを考えるための素材やヒントを十分に提供できたか。日本や地域社会の針路について誤りなき選択肢を示せたか。読者の「なぜ?」を的確につかみ、「そうか!」と理解してもらえる企画や記事を届けたと胸を張れるか。自問すると身をすくめるしかない◆来年こそ、鏤骨の一文字を積み上げる日々でありたい。(明)

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