e生まれながら愛情の中へ 愛知県の「赤ちゃん縁組」<上>

  • 2015.09.24
  • 情勢/社会

公明新聞:2015年9月21日(月)付



望まぬ妊娠に里親紹介 

施設など通さず養子に
171人を仲介 幸福に暮らす権利守る



新生児の虐待死が絶えない中、愛知県の児童相談所が30年以上前から取り組んでいる「新生児の里親委託」(赤ちゃん縁組)が今、愛知方式として全国から注目を集めている。産みの親がさまざまな理由から手放した赤ちゃんを乳児院などの施設に預けず、出産直後に病院から直接、里親が引き取って育てることが最大の特徴。児童相談所は、産みの親が妊娠中から相談に応じ、同時に里親候補も決める。出産前に双方の意思を確認することでスムーズな縁組を進めてきた。里親とはいっても戸籍上も親子になる特別養子縁組が前提なので、里親の喜びは大きい。これまでに10カ所の児童相談所で、171人の赤ちゃん縁組を仲介した実績が評価され、厚生労働省の里親委託ガイドラインにも紹介された。


「初めまして。ようこそ私たちの家族に!」。生まれたばかりの赤ちゃんを大切に抱きかかえ、あふれてくる涙で声も震えてしまう。愛知県豊川市在住の渡辺力さん、智美さん夫妻は、赤ちゃん縁組によって待望の「わが子」を家に迎えた時の喜びを今もよく覚えている。この喜びと感動を込めて「いつき」と命名した。1歳9カ月になった、いつきちゃんは夫妻のたっぷりの愛情に育まれ、すくすくと成長している。


赤ちゃん縁組に出会う前、夫妻は子どもが欲しくて不妊治療を4年間続けたが結果が出ず、落胆と焦りに苛まれていた。そんな時、県の「里親委託」を知った。「どうしても子どもが欲しかった。普通の家庭と同じように愛情を注ぎ、温かい家庭の中で子どもを育てたい」。そうした思いを抑え切れず申し込んだ。


間もなく、夫妻のもとに児童相談所から養子縁組の話が来た。この時点で、赤ちゃんはまだお腹の中だ。通常、里親が「特別養子縁組」で養子を引き受ける場合、子どもはいったん乳児院や児童養護施設に預けられる。障がいの有無などのトラブルを避けるため、縁組が実現するのに2~3年かかるケースが多い。


だが、愛知方式は出産前から妊婦と話し合い、里親も決めるため、出産と同時に里親は赤ちゃんと対面できる。これによって「望まない妊娠」で不安を抱える妊婦や家族が安心して出産できるようにケアするとともに、里親にも早くから受け入れの準備を促し、自然な親子関係を始められるようアドバイスする。


ただ、里親に出される条件は厳しい。(1)特別養子縁組が成立する前に、産みの親から子どもを引き取りたいと申し出があった場合、子どもを返す(2)性別や障がいなどの有無によって取り止めることはしない(3)適切な時期を選んで、真実を告知する―などとされている。これは、同制度の目的が「親の都合」ではなく、子どもが幸福に暮らす権利を守ることにあるためだ。


これに対し、智美さんは「縁があって私たち家族に話があった。性別や障がいの有無などに関係なく、赤ちゃんを家族に迎えたい」と切望。力さんも全く同じ思いだった。今、夢に見た温かい家庭を築いた渡辺さん夫妻は、「親も子も"普通の家庭"と同じ環境でスタートできる。愛知方式が(特別な制度ではなく)当たり前だと社会に認識されるようになってほしい」と祈るような表情で語った。

月別アーカイブ

iこのページの先頭へ