e酪農の再生 農協、自治体、企業の関係強化を

  • 2015.06.18
  • 情勢/社会

公明新聞:2015年6月18日(木)付



昨年に続き、今年もバター不足が懸念されている。農林水産省は緊急輸入で対応する方針だが、最大の不足要因は、酪農家の減少に伴う生乳不足だ。昨年度の生乳生産量は、ピーク時に比べて約15%減少。高齢化や飼料高騰で、農家数や飼養頭数の減少傾向も続く。弱体化が進む国内酪農の再生には、成長産業化への戦略が欠かせない。


こうした苦境の打破に向け、注目されている取り組みがある。地域の酪農家や酪農関係者がクラスター(ぶどうの房)のように結集し、地域全体で収益性の高い事業を創出する「畜産クラスター」事業だ。具体的には、生産者や自治体、農協、関係企業などで協議会を設置して、事業計画を策定。都道府県知事が同計画を認定すれば、国庫補助が受けられる。


既に、事業効果の出始めている先進地域もある。例えば、長野県の八ケ岳南麓放牧協議会では、放牧酪農の導入で飼料費など生産コストを30%削減。放牧生乳を利用した機能性乳製品の製造でブランド化を進め、地域全体で事業導入前に比べて大幅な収益増が見込まれている。


一方、同県の南信飼料用米利用普及協議会は、飼料用米やリンゴジュース粕などを使って安価で高付加価値化した飼料を製造。南信地域の乳牛の飼料コストの低減や飼料自給率の上昇につながり、収益性の向上が期待されている。


両協議会に共通しているのは、地域に根ざし、事情を熟知する生産者や企業、学術機関などが協力し、地域資源を生かした事業内容になっている点だ。今後、事業化を進める地域にとっては参考になる視点ではないか。


ただ、その過程で重要なのがリード役の存在だ。地域によっては、事業関係者がそろっていても、それぞれの事業を優先しがちになり、全体観に立って主導的な役割を果たそうとする動きが出てこないため、事業化に至らないケースもあるという。


実際、先進地域では自治体や農協が議論をリードして事業化に至るケースが多い。今後の酪農事業において、両者の存在は欠かせないが、酪農家の声を十分に聞きながら、地域全体で再生への道筋を見い出してもらいたい。

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