eコラム「北斗七星」

  • 2015.06.16
  • 情勢/社会

公明新聞:2015年6月16日(火)付



林芙美子は屋久島(鹿児島県屋久島町)を舞台にした小説『浮雲』で、「ひと月に三十五日雨が降る」と表現した。黒潮の水蒸気が、そそり立つ山肌にぶつかり、上昇して雲になる。降り注ぐ雨でできた豊かな滝と川が、太古の森を育んできた◆スペースシャトルから島を見た宇宙飛行士の毛利衛さんは語った。「緑がすごく多く、黒っぽかったが、周囲が海に浮き出るように光って見えた」。天空から眺めた屋久島は、大海原に浮かぶ一つの「地球」だろう◆口永良部島・新岳の火山活動が続く中、避難先となっている世界自然遺産の屋久島が、風評被害に気をもんでいる。観光シーズンを前に気掛かりだ◆屋久島は口永良部島から約12キロ離れ、噴火の日にわずかな降灰があった程度。だが、8月に予定されていた100人規模の修学旅行がキャンセルになったという。屋久島観光協会の榎光徳事務局長は「屋久島からの映像がテレビで流れ、勘違いしている人が多いのでは」と困惑顔だ◆記者が訪れた日も、屋久島は雨だった。うねうねとした深い霧の林道を車で走ると、至る所で野生の猿と鹿に出会った。昔から島では「人2万、猿2万、鹿2万」と言うらしい。修学旅行生たちにも、時に人を苦しめることもある大自然の中に、その身を置いてみてほしかったのだが。(也)

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