e文化財受難  国の財産 社会全体で守りたい

  • 2015.04.30
  • 情勢/解説

公明新聞:2015年4月29日(水)付



奈良県や京都府などの寺社や城で、国宝や重要文化財などに油のような液体がまかれる被害が相次いでいる。


断じて許せぬ、悪質極まりない行為だ。警察は徹底的に捜査を進め、容疑者検挙に全力を挙げてもらいたい。それが再発を防ぐ何よりの抑止となる。


これまでに明らかになっている被害件数は、11の府県合わせて35件。二つの古都のほか、新潟、千葉、茨城、香川県など広範囲に及ぶ。


最も多いのが奈良県で、世界遺産の東大寺や唐招提寺、春日大社など19の寺社で見つかっている。京都府でも世界遺産の二条城、東寺や重要文化財の八坂神社など4カ所で被害を受けた。今後、点検や捜査が進めば、被害がさらに増える可能性がある。


奈良県内の複数の寺の防犯カメラに服装が似た不審者の映像が残っていたことが分かっているが、これだけでは犯人の特定は難しいようだ。模倣犯を指摘する声もある。


不可解なのはその動機だ。幼稚な大人が面白半分に公共物に落書きしてしまう類いの、"過ぎたいたずら"の範疇なのか。あるいは、人知れず世間を騒がせることに孤独な快楽を覚える愉快犯の仕業なのか。いずれにせよ、文化財保護法に違反する明確な犯罪であることに変わりはない。


事件は、文化財保護のあり方に一石を投じ、改善と強化を迫っているように映る。実際、盗難による喪失や無断売買、劣悪な保存環境下での劣化、損傷など、ここ数年来、文化財は受難続きだ。


背景の一つに、文化財の保存・管理の第一義責任を所有者に求めている現行制度の甘えがあるとの声は強い。国は文化財に指定すれば、あとは所有者に任せっきりというのでは、防犯強化や補修、無断売買の防止などを徹底できないのは当然だ。国と所有者が一体となって取り組む仕組みづくりが欠かせない。


地元自治体や地域住民の支援、協力も不可欠だ。今回の事件を受けて、神戸市などいくつかの自治体は防犯設備の設置に補助を行うことを決めた。住民有志で巡回パトロールを始めた地域もある。


地域の"お宝"にして、国民共有の財産である文化財を社会全体で守っていきたい。

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