eコラム「北斗七星」

  • 2014.10.20
  • 情勢/社会

公明新聞:2014年10月18日(土)付



「太った豚になるよりは痩せたソクラテスになりたい」。東大の大河内一男総長が経済学者J・S・ミルの言葉を引用して行った卒業式の式辞は、50年たった今も名文句として語られている◆しかし、真相は違う。各新聞社は夕刊の締め切り時間を守るため、総長が登壇してから配布された式辞の内容を予定稿のまま記事にしたが、「総長はミルの言葉を読みとばしてしまい、(中略)見出しにまでなった」(「誤報・虚報の戦後史」 山下恭弘 東京法経学院出版)のが実情だ。紙面作りの事情を優先するあまり、肝心の事実確認を怠り、大失態を演じたわけである◆新聞週間が始まった(21日まで)。今年は、朝日新聞が慰安婦を巡る証言や、東京電力福島第1原発の「吉田調書」報道が誤報だったことを認め、報道のあり方が問われる中で迎えた◆新聞は多様な考えや判断材料を提供し、健全な言論空間を形成する役割を担う。ただ、その機能を具体化する記者が自省力を失うと、データや素材の選択に予断を持ったり、バイアスが加わることは珍しくない。その葛藤を克服しなければ、知る権利の代行者、民主主義の維持装置としての新聞の社会的責任を果たせない◆伝える内容が、本当に事実か。間違いないか。その確認作業を決して怠らず、紙面作成に携わっていきたい。(明)

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