e夢が膨らむ!宇宙時代

  • 2014.08.18
  • 情勢/テクノロジー
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公明新聞:2014年8月15日(金)付



ISSは平和のシンボル 若田
人類のための技術を創造 山口



国際宇宙ステーション(ISS=※参照)の日本人初の船長を務め、今年5月に地球に帰還した宇宙飛行士の若田光一さんが、一時帰国中です。7日、宇宙時代の最前線に立つ若田さんと公明党の山口那津男代表との、夢が膨らむ対談が実現しました。(司会は伊佐進一衆院議員)

半年間の滞在で日本人初船長に

―若田さん、お帰りなさい! 今回は昨年11月から今年5月まで半年間に及ぶ宇宙滞在。多くの国民が若田さんの勇姿に魅せられました。

山口 若田さんの地球への帰還シーンが印象的でした。帰還カプセルからスタッフに抱えられながら出てきた若田さんが、素晴らしい笑顔をされていた。地上に降り立った時はどんな気持ちでしたか。

若田 地球は素晴らしい故郷だなという実感が強く湧いてきました。ISSには私たちが吐く息に含まれる二酸化炭素(CO2)を除去したり、尿を飲み水に再生する装置があります。これらの一つでも壊れると、死活問題に直結します。

そんなところで生活していると、人類が生存できる環境が整った地球自体が、一つの"宇宙船"のように見えてくるのです。アマゾンの熱帯雨林も、まるで自然のCO2除去装置です。人類の一員として、宇宙に活動領域を広げる仕事ができるうれしさとともに、かけがえのない地球を守っていかなければいけないとの思いが込み上げてきました。

山口 地球を離れ、外から見た宇宙飛行士ならではの説得力がありますね。若田さんはかつて、「地球はいくら見ても飽きない」とも言われていましたが、地球はどんな表情をしているのですか。

若田 ISSは地球の周りを1周約90分というスピードで回っているため、日の出が一日に16回やって来ます。しかし、その繰り返しの中でも、地球は決して同じ顔を見せることはありません。特に、昼と夜は全然違う。

昼間の光景は、自然のダイナミズム(活力)を感じます。雲の動きや海のグラデーション(濃淡)がとても鮮やかです。サハラ砂漠では、強い風が吹いていることを連想させる「砂の筋」も見えます。

一方、漆黒の闇に包まれた夜の眺めは、自然の力強さ以上に、人間が手にした科学技術力の高さに目を奪われてしまいます。日本を含むアジア、北米、欧州など北半球が特にまばゆい光を放っています。

山口 もしこれを宇宙人が見たら、直ちに文明の存在に気付くでしょうね。

若田 そう思います。今年3月には、東北地方の街々が明るく輝いているのを見て、皆さんの努力によって復興が進む様子をきちんと確認できました。自分も頑張らないといけないなと、エネルギーをもらいました。

山口 被災地にともる"希望の光"が宇宙にも届いているなんて、被災地の皆さんにとって、これほど心強いエールはありません。



乗組員の力を引き出すため「和の心」で挑んだ 若田



―若田さんは、今回の長期滞在後半の約2カ月間に日本人初の船長を務めました。就任抱負で「和の心」を強調されていましたが、実際、1日8時間かかる作業が、若田さんの指揮によって6時間で終わったこともあったそうですね。

若田 ISS内には、ロシアの宇宙飛行士3人とNASA(米航空宇宙局)の宇宙飛行士2人、私の計6人のクルー(乗組員)がいます。作業を安全かつ効率的に進めるには、彼ら一人一人の力を最大限に出してもらう必要があります。

「和の心」と言っても、最初から互いの妥協点を見いだしていくのではなく、彼らに意見をきちんと言ってもらい、それらを一つの方向にまとめ上げ、推進力に変えていくことに重点を置きました。

山口 コミュニケーションが大切ということですね。「和の心」を培うには、やはり、食事を共にすることが大事ですか。

若田 はい。食事は皆がくつろぎながら、いろいろな話ができる貴重な時間です。ただ、時間を合わせて一緒に食事をすることが、かえって彼らにストレスを与えてしまうこともあります。個々の生活習慣や健康状態にも気を配り、全員の食事は週末に限りました。

とはいえ、クルー同士は"同じ釜の飯を食う仲"なので意思疎通しやすい。むしろ米国やロシア、ドイツなど地上の管制局とのコミュニケーションを図るのが難しい時もありましたが、「和の心」は通用したのではないかと思っています。



宇宙開発は日本に期待される重要な国際貢献 山口



月、火星への有人探査でも役割を

山口 公明党も国民の声を受け止め、政策として実現するチーム力を持ち味にしてきました。若田さんの姿勢に学ぶことは多いです。うがった見方ですが、この間、ウクライナではいろいろもめ事があり、米国人やロシア人のクルーたちの間で苦労されたのでは。

若田 ISSでも、インターネットを通じて、地上の情報を入手できるので、ウクライナ情勢についても、クルーの間で話し合うことはありました。ただし、地上の出来事が、私たちの任務に悪影響を与えることは全くありません。

というのも、ISS自体が、かつての冷戦時代のライバルだった米国と旧ソ連(現・ロシア)を含む国際協力によって、建設されたものだからです。いわば、ISSは"世界平和のシンボル"なのです。

山口 ISSには国境もないし、場合によっては国籍も感じない。そこでは、日々、私たちの人類の生活を豊かにするような技術や知見が生み出されている。夢が膨らみますね。

若田 例えば、宇宙空間で骨がもろくなる原因を調べることで、骨粗しょう症の新たな治療法の開発が進んでいます。また、筋ジストロフィーやアルツハイマー病などの創薬につながる技術も培われています。

山口 ISS計画のまとめ役の米国から、2020年までの計画期間を4年間延長したいので日本にも参加してほしいという要請が来ていますね。日本がこれまで培ってきた実績、若田さん自身の貴重な経験を生かすためには、どうしていったらいいと思いますか。

若田 今回、私自身に船長という機会が訪れたのは、日本が世界各国から信頼できるパートナーとして見てもらえる時代になったからです。科学技術立国として、世界に誇れる高い技術があったればこそです。

例えば、東日本大震災の時には、人工衛星「きずな」を使い、災害対策本部と被災地を結び、被災地の皆さんが知人の安否確認を行ったり、罹災証明に必要な住民票情報を確認してもらいました。また、ISSの一部となる「きぼう」日本実験棟には高性能のカメラが備え付けられていて、台風や地震に対して監視の目を光らせています。

そうした実績の積み重ねを経て、月や火星などへの有人探査でも日本が主体的な役割を果たしていく必要があると思っています。私自身も現役を続けながら、第2、第3の日本人船長が誕生するよう、後輩の育成に尽力したいと思っています。

山口 宇宙開発を通じた国際貢献は、日本に期待される重要な役割です。政治もしっかりと応援していかないといけないですね。



子どもに伝えたい無限の可能性



―宇宙開発は、医療・介護、防災、ものづくりなど、さまざまな可能性を秘めていますね。最後に、青少年へのメッセージをお願いします。

若田 子どもたちは皆、素晴らしい力を持っています。しかし、その輝く力に気付いていない子が多い。ぜひ、好奇心のアンテナを広げてほしい。宇宙が無限大のように、子どもたちの可能性も無限大だと信じています。

山口 若田さんとの語らいで、宇宙は平和の象徴であるとともに、人類社会の理想を追求する場でもあると感じました。忙しいでしょうが、どうぞ、体に気を付けて頑張ってください。

わかた・こういち 1963年生まれ。九州大学大学院工学府航空宇宙工学専攻博士課程修了。博士(工学)。日本航空(株)勤務を経て92年、現在の宇宙航空研究開発機構(JAXA)に入社。これまでに4回の宇宙飛行を経験し、通算の宇宙滞在期間は日本人最長の347日8時間33分を記録した

※国際宇宙ステーション 地上から約400キロメートル上空に建てられた有人実験施設。日本をはじめ、米国、ロシア、欧州、カナダの世界15カ国が参加し、実験・研究、地球や天体の観測などを行っている。大きさはサッカー場くらい。

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