e震災遺構保存問題 「○に近い△」めざす発想で

  • 2013.11.28
  • 情勢/解説

公明新聞:2013年11月28日(木)付



宮城県が有識者会議設置へ
時間かけ議論尽くしたい



保存か解体かで揺れる東日本大震災の遺構問題で新たな動きが出てきた。

宮城県の村井嘉浩知事が被災した沿岸15市町の首長らを集め、「県全体で一括調整する」考えを明らかにしたもので、全首長がこれを了承した。県は年内にも有識者会議を発足させ、十分に時間をかけて保存遺構を選定する方針だ。

震災遺構をめぐっては、宮城県気仙沼市の陸地に打ち上げられた大型漁船が既に解体され、町職員ら43人が犠牲となった南三陸町の防災対策庁舎も近く解体作業が始まる予定だった。推定200人以上が犠牲となった岩手県釜石市の鵜住居地区防災センターの解体も目前に迫っている。

村井知事が打ち出した今回の方針は、各地で進むこうした解体の流れにひとまず待ったをかけることになろう。事実、南三陸町防災対策庁舎は一時解体凍結が決まった。

震災遺構が"あの日"のつらい記憶をとどめる"負の遺産"であることは言うまでもない。早期の解体を求める遺族ら被災者の痛切な思いを軽視することは許されない。

だが、その一方で、遺構は震災の教訓を未来に伝える"生きた教科書"であることも事実だ。鎮魂と慰霊、風化への抵抗、防災教育、観光などさまざまな視点から保存を訴える声を無視するわけにもいかない。

そんな状況下、保存でも解体でもない、「検討」という"もう一つの道"を選んだ村井知事の判断は高く評価されていいだろう。「先延ばしも一つの知恵」としてきた公明党の考えともぴたりと重なる。

"行動する医師"として知られる鎌田實氏の近著『○に近い△を生きる』に寄せて言うなら、「○か×か」の思考でなく、「○に近い△」をめざし、その中で難題を乗り越えようということだ。

思えば、世界遺産として今に形をとどめる広島の原爆ドームも、保存が決まったのは戦後も20年を過ぎてから。議論を尽くして最良の結論を導いた先人の知恵に学びたい。

問題は、震災遺構に対する国の方針がいまひとつ、はっきりしない点だ。そもそも国が遺構保存の支援策を打ち出したのは、震災から2年8カ月もたった今月15日のこと。しかも、負担するのは初期費用だけで、維持管理費は除外。支援対象を1自治体1カ所に限定している根拠も不明瞭で、中途半端の感を拭えない。

「遺構は国民に残すべき国の遺産」(斎藤俊夫・宮城県山元町長)との発想に立ち、国はもっと前面に出るべきである。

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