e【主張】iPS治験 再生医療実用化へ大きな一歩

  • 2018.08.02
  • 情勢/解説
2018年8月2日


多くの患者を救う再生医療の実用化に向けた取り組みが、大きく動き出す。
京都大学のチームが、iPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った神経細胞をパーキンソン病患者の脳へ移植する臨床試験(治験)を今月から始める。年内にも最初の患者への移植手術が行われる。
体のあらゆる細胞に変化する能力を持つiPS細胞の作製から10年余り。これまで、iPS細胞から作った網膜の細胞を目の難病「加齢黄斑変性」の患者に移植するなど、着実に成果を重ねてきた。
今回は、他の臨床研究に比べてより実用化が近いと期待されており、将来的な保険適用を見据えた治験として大きな一歩だ。成功すれば、iPS細胞の有用性を広く示す機会となるに違いない。
何より、国内で約16万人に上るパーキンソン病患者にとっては朗報となろう。
パーキンソン病は、脳内の神経伝達物質であるドーパミンを出す神経細胞が減って発症する難病で、手足の震えや体のこわばりが起こる。徐々に身体が動かなくなることで日常生活が困難になり、介護が必要になるケースもある。
現在の治療法は、ドーパミンの分泌を促す薬の服用が主流だが、症状が進んで神経細胞が減ると効果が薄れる。根治法がない中、iPS細胞が活用できれば長期間にわたる治療法の確立につながり、治療の選択肢も広がる。多くの患者が待ち望んでおり、ぜひ成功させてもらいたい。
ただ、今回は薬の効果が切れると運動障害が起こる患者が対象で、寝たきりなどの重症患者には効果が薄いとされる。治験では、どのような患者に効果を発揮するのか慎重な見極めが求められる。
安全性にも格段の注意が欠かせない。脳は非常に重要な臓器であり、治療中に不具合が起きると重篤な症状に陥る恐れがあるからだ。iPS細胞から神経細胞になり損ねた不完全な細胞が混じると、がん化する恐れもある。性急な成果にとらわれず、着実に取り組んでほしい。
今後、心臓病や角膜の難病、脊髄損傷などでもiPS細胞を使った臨床研究が計画されている。今回の治験を機に再生医療研究の一層の充実を期待したい。

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