eコラム「北斗七星」

  • 2018.07.23
  • 情勢/社会
2018年7月23日


働く人の昼食をのぞくテレビ番組を見ながら弁当をめぐる二つの話を思い出した。一つは、作家の木内昇さんが以前、「プロムナード」(日経新聞)に寄せていた『弁当三十六景』という話◆学生時代の思い出を書いたもので「彩り美しい弁当は山とあったろう。しかし記憶に残るのは、その家のにおいがにじみ出たような弁当ばかりだ。家庭にはそれぞれ、流儀や価値観、習慣がある」と木内さん◆もう一つは『日本一心のこもった恋文8』(恒文社21)に収められていた『巨大な弁当』という話。43歳の男性が母親にあてて書いた手紙で「大好きな母さんへ」と始まる◆大学受験で上京する時、母が持たせてくれたのが30センチ四方の巨大な弁当。恥ずかしさのあまりフタを少し持ち上げ、箸を入れ三口、四口食べただけで男性は、風呂敷ごと東京駅で捨ててしまった◆苦しい家計の中での受験だった。「今になって、あの巨大な弁当に込められた母さんの計り知れない大きな愛を感じる」と男性。母親のにおいがにじみ出た弁当だったことに気付いたのだろう◆「この手紙を書いていることで、親不孝の何分の一かでも許してほしい」と結ばれる。手紙にすることではっきりする気持ちがある。手紙だからこそ時を超え伝えられる思いもある。きょうは「文月ふみの日」。(六)

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