e国際仲裁の活性化 企業の海外展開リスクの低減を

  • 2018.05.21
  • 情勢/解説

2018年5月21日



海外に進出した日本企業にとって、商取引に関わる法的トラブルへの対応は難しい。

 裁判が確実な解決方法であるが、外国の裁判では思わぬ時間とコストがかかる。そこで、紛争当事者の双方が合意によって裁判官に当たる仲裁人または仲裁機関を選び、その判断に従う国際仲裁が広く利用されている。

ところが日本企業の利用は少ない。その理由の一つに、同時通訳やテレビ会議の施設を持った、国際仲裁の審問が行える専用施設が国内になかったことが挙げられていた。

5月からその専用施設が大阪でスタートした。政府は昨年の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)で国際仲裁の活性化を掲げた。国際仲裁という民間主体の紛争解決手続きに対する適切な支援を続ける必要がある。

 国際仲裁には企業にとってさまざまなメリットがある。

まず、国際仲裁の審問は非公開であるため、特許や企業秘密が絡む問題では公開の裁判よりも利用しやすい。

また、紛争になった問題に詳しい専門家を仲裁人に選ぶことで、双方の主張もよく理解してもらえる。

さらに、仲裁で下された判断には裁判の判決と同じ効力があるが、その判断を執行する場合、「外国仲裁判断の承認および執行に関する条約」によって判決の執行よりも容易になっている。

ただし、国際仲裁の審問を行う仲裁地の選択は大事になる。相手国や第三国で行うと日本の本社との連携で余分なコストがかかる。また、仲裁に合意した後になってその判断の有効性が争いになった場合、仲裁地の裁判所で訴訟になることもあるため、日本企業にとっては日本で国際仲裁をすることが有利になる。

 今後、専門施設など国際仲裁の活性化につながる基盤整備が進めば、企業も「紛争は国際仲裁を利用し、その仲裁地は日本」となるよう契約段階から交渉することも可能となり、海外展開のリスク低減につながる。

 専用施設の整備ではシンガポール、香港、韓国などに大きく遅れている。さらに施設だけでなく、国際仲裁に対応できる有能な法律家の育成も不可欠であり、政府が取り組むべき課題は多い。

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