e強制不妊手術 被害者に寄り添い、救済急げ

  • 2018.04.02
  • 情勢/解説

公明新聞:2018年3月31日(土)付



「子どもを産めず離婚」「私の身体を返して」――。16歳で強制手術を受けた女性の訴えである。子どもを産み育む権利を知らぬ間に奪われた当事者の無念は、いかばかりか。

戦後間もない1948年、「不良な子孫の出生防止」を掲げて制定された旧優生保護法の下、知的障がい者らへの不妊手術が繰り返された問題で、厚生労働省は4月末にも実態調査を始める。与党ワーキングチーム(WT)の要請を受けたものだ。

旧厚生省の記録によると、旧優生保護法にあった差別的な条文を削除した母体保護法が96年に成立するまで、全国で2万4991人の障がい者が不妊手術を受け、1万6475人は本人の同意がなかった。各種調査では、このうち個人を特定できる資料が残るのは約2割にとどまる。本人の意思に反していたとすれば、明白な人権侵害だ。

長年、やり場のない感情を押し殺してきた被害者や関係者は高齢化している。実態究明へ残された時間は多くない。迅速な調査を求めたい。

与党WTの主張を踏まえ、厚労省が都道府県などに対し関係資料の保全を求める通知を出したのは当然だ。関係機関が連携し、速やかに全容解明を進めてほしい。

被害者の中には、判断力やコミュニケーション能力にハンディのある障がい者もいて、明確な証言ができない可能性がある。事実が公になることを控えたい人もいるだろう。調査には、被害者に寄り添う丁寧な姿勢が不可欠だ。

超党派の議員連盟も救済策の検討に入っている。しかし、課題は山積している。記録が残っていない場合、どのように被害を認定するか。仮に手術への同意があったとしても本当に不妊手術の意味を理解した上での同意だったのか。判断は容易ではないが、立法府として幅広い合意を得て救済に導く責任がある。

現在、いくつかの自治体が独自に関連資料の調査を始めているが、手つかずの地域もある。北海道のように相談窓口の設置を進めてはどうか。

個人の尊重や幸福追求権を保障した現行憲法下で旧法がなぜ施行され、半世紀近くも存続してきたのか。この点も真摯に検証する必要がある。

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