eコラム「北斗七星」

  • 2018.03.23
  • 情勢/社会

公明新聞:2018年3月23日(金)付



「花は紅なり山桜の春」。751年に編纂された『懐風藻』の一節である。作者は近江守采女朝臣比良夫。官僚機構を修正する一方、貧困対策を講じた改革期の貴族だ◆長く愛されてきた桜。今年はその便りが早い。横浜で平年より7日、福岡でも4日早く開花。高知は既に満開で、統計が整った1953年以降、全国で最も早い記録だ。最近の寒暖差には閉口するが、桜の開花には季節の寒暖差が影響するらしい◆まず、秋に十分に気温が下がること。すると花の芽の成長が止まり休眠状態に。冬季に寒さがさらに厳しくなれば、今度は花芽が目覚める「休眠打破」が発生。これがあれば、気温上昇でつぼみが膨らみ、開く。厳寒の季節に下地が作られるのだ◆ちなみに、日本には無かった、花を愛でる習慣が最初に根付いたのは菊と梅。桜はその後だ。菊をこよなく愛したのは皇族政治家・長屋王。ところが729年、自死に追い込まれる。代わって朝廷の中枢にいた藤原氏が梅を表舞台に押し上げた(高橋睦郎著『季語百話』中公新書)◆実際、奈良時代の『万葉集』では梅の歌が他を圧倒。平安時代の『古今和歌集』でようやく桜の歌が増え、梅とほぼ同数になった。桜の花の儚さ故か。戦前、偏向主義者が解釈をねじ曲げ、スローガンに利用した歴史も。極端な動きには危険も潜んでいる。(田)

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