eコラム「北斗七星」

  • 2018.02.21
  • 情勢/社会

公明新聞:2018年2月21日(水)付



「夢ならば」と思う現実もあれば、「さめないで」と願う夢もある。東日本大震災で亡くなった人を想い見る「夢」にはどんな感情が込められているのだろう―。東北学院大学(仙台市)の金菱清ゼミの学生16人が100人近い遺族から聞き取った調査をまとめた◆大概の人は他人に夢を話すことはない。学生たちの無垢なまなざしが遺族の心を開いたのだろう。記録集『私の夢まで、会いに来てくれた 3.11 亡き人とのそれから』(朝日新聞出版)に収められた"27編の夢"からは、遺された人々の心の光景がくっきりと浮かび上がる◆宮城県石巻市立大川小学校5年の妹を失った紫桃朋佳さんは「会いたいなぁと思いながら眠ると、夢の中で千聖と手をつないでいる夢とか見る」という。祖母と妻、幼い3人の子を亡くした同県東松島市の阿部聡さんは「(夢で)会うと悲しくなるけど、出てきてほしいっていう気持ちもある」と複雑な胸の内を明かす◆突然の別れを余儀なくされた人々の話を聞いて、学生たちは「『夢』は亡き人とのリアルな対面方法」で「日常を支えるかけがえのないもの」と気付かされた◆「自分たちのような思いを後世の人にさせたくないから」と遺族は夢を言葉にした。その心に添い失われた命と向き合おう。声なき声に耳を澄ませて。(川)

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