eコラム「北斗七星」

  • 2017.12.14
  • 情勢/社会

公明新聞:2017年12月14日(木)付



朝鮮民族には「恨」の感情があるという。どうにもならない悲しみや苦しみの澱とでも言おうか。オペラ歌手、田月仙さんは『海峡のアリア』(小学館)に母の「恨」を綴る。在日一世の母は、息子4人を北朝鮮に送り出したことを生涯悔い、『岸壁の母』を歌った◆1959年に始まった北朝鮮への帰還事業で、約9万3000人の在日朝鮮人らが海を渡った。きょう14日は、「マンセー(万歳)」に見送られ、第1陣が新潟港を出航した日である。月仙さんの兄たちも、「地上の楽園」を信じた◆革新政党だけでなく、新聞や文化人が帰還をあおった。「北朝鮮の社会主義建設はめざましい。...近代的なビルが並び、それはことごとく労働者の住宅」(59年12月26日付「朝日」)と。数年後、4人は強制収容所送りとなる。母は80年に北朝鮮を訪れ、息子たちと20年ぶりの再会を果たすが、次男はすでにこの世を去っていた◆元在日や拉致被害者の関係者もいるかもしれない。日本海沿岸に木造船が漂着している。食糧難による「冬季漁獲戦闘」とか。国に家族を残し、極寒の海でこみ上げたものも、「恨」だっただろうか◆板子一枚下は地獄と言うが、国そのものが監獄である。拉致被害者家族の相次ぐ訃報に接し、焦りが募る。家族の絆を切り裂いた時間の長さが恨めしい。(也)

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