e婦人保護事業-60年目の見直しへ(上)

  • 2017.09.06
  • 情勢/解説

公明新聞:2017年9月6日(水)付



当初の制度と"隔たり"
暴力、貧困、障がいなど女性めぐる課題 複雑に



暴力被害や貧困など、さまざまな困難を抱える女性を公的に支援する婦人保護事業が転機を迎えている。創設から60年を過ぎ、現場関係者は「制度と実態が合っていない」と指摘。自民、公明の与党両党も見直しの検討へ動き出している。同事業の現状を追った。

「生きづらさを抱えた女性たち。それは婦人保護施設で受け入れる人の特徴と言っていい」。全国婦人保護施設等連絡協議会の横田千代子会長はこう語る。同施設では、DV(配偶者からの暴力)被害者や帰る所がない女性などが生活し、自立に向けた支援を受ける。相談支援と並ぶ婦人保護事業の柱で、39都道府県に47カ所ある。2015年度は924人が利用した。

入所者は10代から高齢者まで幅広く、課題が多岐にわたる女性も多い。横田会長が施設長を務める東京都内の施設では、入所者22人(8月10日時点)のうち18人が精神科を受診し、17人に知的障がい(療育手帳取得者8人)がある。暴力被害経験は19人。うち14人は性暴力を受けている。全国の入所者を見ても、約4割で何らかの障がいや病気がある。

障がい、暴力被害、家庭不和などによる生きづらさを抱え、誰にも頼れず貧困状態に陥り、行き場をなくしてしまう――。こうした女性が保護され、入所している実態があると横田会長は指摘する。

一方、女性を取り巻く問題が複雑化し、心のケアや福祉的支援の重要性が増しているにもかかわらず、職員などの体制が追い付いていない。DV被害者に同伴して入所する児童への対応なども遅れている。

この背景には、もともと婦人保護事業が、1956年に制定された売春防止法を法的根拠としていることがある。当初の目的は「売春を行う恐れがある女性の保護更生」。その後、大きな法改正のないまま対象者が広がり、今では支援を必要とする女性が抱える複雑な課題と、制度の枠組みとの間に大きな"隔たり"が生じている。

そうした"隔たり"を少しでも埋めようと関係者は懸命に努力を続けるが、横田会長は「支援現場の熱意と努力だけでは、制度が持ちこたえられないところにきている」と訴える。


婦人保護事業


実施機関として①都道府県に設置される婦人相談所②同相談所や福祉事務所に配置される婦人相談員③都道府県や社会福祉法人が設置する婦人保護施設――がある。

DV被害者などには相談員・相談所が対応し、相談所が一時保護を行う。中長期的な支援が必要な場合は、相談所が婦人保護施設への入所措置を決定する。

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