e南海トラフ対策 「事前避難」の合意、どうつくるか

  • 2017.08.31
  • 情勢/解説

公明新聞:2017年8月31日(木)付



いつ発生するか分からない大地震。「いざ」という時に備えるための防災・減災対策をいかに高めていくか。

南海トラフ巨大地震対策について議論してきた、政府の中央防災会議の作業部会が報告書案をまとめた。この中で注目されているのが、南海トラフの東端を震源とする東海地震に関し、予知を前提とした大規模地震対策特別措置法(大震法)に基づく防災対策を「改める必要がある」と指摘したことだ。

1978年に制定された大震法は、地震予知ができることを前提にしている。地震の前兆を観測網で捉えると、首相が警戒宣言を出し、鉄道の運行や病院、銀行業務の一部停止など強い規制を行う仕組みだ。

ところが、現在の知見では「地震予知は困難」とされる。しかも、南海トラフ全体で大規模地震発生の可能性が高まっていると指摘する専門家もいる。阪神・淡路大震災や東日本大震災を予知できなかった事実を踏まえれば、作業部会が対策の見直しを求めたのは当然とも言えよう。

予知に頼れないとなれば、日ごろの備えが一段と重要になることは言うまでもない。予知は無理という認識を自治体や住民、企業に広く共有してもらう必要がある。

その上で、いつ、どこで地震が起きても被害を最小限に抑える対策をどう強化するか。建物の耐震化や避難計画、訓練の実施などハード、ソフト両面から取り組みを見直すべきである。

この点、報告書案では巨大地震が発生する可能性がある四つのケースを示し、前震など地震の発生リスクが高まった場合でも、早めに安全な場所に避難する「事前避難」の仕組みの検討が提案された。

住民の命を守るためには、有効な対策の一つではあろうが、一方で、避難基準のあり方をはじめ避難をいつまで続けるか、交通機関に運行停止を求めるかなど市民生活への影響を想定すると、社会的な合意形成は不可欠だ。例えば、地震が起きず「空振り」になった場合の行政の判断の当否をどう考えるか。

自治体、住民、企業など関係者で早急に議論をスタートさせ、合意をつくり出す努力が望まれる。

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