eコラム「北斗七星」

  • 2017.08.31
  • 情勢/社会

公明新聞:2017年8月31日(木)付



作家の大岡昇平はかつて、「戦場という状況では、思考は停止するものか」と尋ねられたことがあった。インタビューしたのは、雑誌連載の若い担当者。大岡には戦地で捕虜になった経験がある◆大岡の返答が興味深い。「『停止した』とは思わない」が、「『判断力の欠損』が生じる」というのだ。中村明著『日本の一文 30選』(岩波新書)にある。北朝鮮が発射したミサイルが北海道上空を通過し太平洋上に落下したと聞いて思い出した◆「やっぱりきたか。何を考えているのか」。NHKの街頭取材に応じた若者の怒りは、多くの人にとって共通した思いだったに違いない。専門家は「日米への威嚇」「建国記念日に向けた実績づくり」などと解説したが、どうにも「判断力の欠損」としか見えないのだ◆北朝鮮の暴挙で、政治的・軍事的な問題が経済の先行きを不透明にする「地政学リスク」が高まることも懸念される。29日の東京外国為替市場では「有事の円買い」が進み、対ドルで一時、約4カ月ぶりの高値に。片や東京株式市場でも運用リスクを避ける動きが広がった(日経)◆ちなみに、質問に応じた大岡は「危機の状態になるとなんでもいいほうへ、いいほうへ解釈してしまう」とも。そんな異常な心の働きに支配された末の暴挙なのか。解決への道のりは険しくなるばかりだ。(田)

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