e住民主導で高潮タイムライン(事前防災行動計画)

  • 2017.08.16
  • 情勢/気象
[画像]メインイメージ

公明新聞:2017年8月16日(水)付



企業の求人にも助言
開所4年半で約2万人が就職
「就業支援サテライト」好評



大阪府貝塚市は今年2月、海に面した二色の浜旭住宅地区をモデル地区とし、台風による高潮災害を想定した事前防災行動計画「高潮タイムライン」を住民主導で導入した。高潮を対象としたタイムラインは全国初というが、住民の手による策定は極めて珍しく、防災の専門家からも注目を集めている。=関西支局・三木貴志

二色の浜旭住宅地区の「高潮タイムライン」の特徴は、防災行動のレベルを0~5の6段階に分け、レベルごとに誰が、どういった行動をするかを明示していることだ。具体的には、平常時を「レベル0」とし、台風が発生し貝塚市が3日後の予報円に入ると「レベル1」(準備)に。台風上陸の2日前になれば「レベル2」(警戒)に入り、自主防災会による防災本部の設置や住民への注意喚起が始まる。1日前になると「レベル3」(自主避難)になり、住民の避難準備と高齢者などの避難開始が発令され、最接近数時間前には「レベル4」(避難)に引き上げられ、地区の全員が避難を開始。台風が最接近すると「レベル5」(緊急対応)になるといった具合だ。

住民のほとんどが、自主防災会の①意思決定班②安否確認班③情報班④救出・救護・消火班⑤避難誘導班⑥給食・給水班――のいずれかに所属し、班ごとに決められたタイムラインに沿って「共助」の行動を取る。自分や家族の身を守る「自助」のタイムラインもあり、二つの時系列に従って行動する。

大阪府下随一の海水浴場と2級河川の近木川に挟まれるように位置する二色の浜旭住宅地区。「海と川に面した場所だけに備えが欠かせない」と語るのは、高潮タイムライン作成の中心者として活動してきた貝塚市町会連合会長の和田明宏さん(77)。以前から地区の防災について考え、東日本大震災の被災地に4度足を運ぶなど、災害の教訓を学んできた。

貝塚市ではこれまで、1950年に発生したジェーン台風による高潮で死者1人、行方不明者94人、61年の第二室戸台風で行方不明者5人を出したが、それ以降は大きな災害は発生していない。和田さんは「長年、災害を経験していないからこそ、防災の感覚を忘れない取り組みが必要。近年の災害を対岸の火事と思ってはいけない」と語った。


専門家招きワークショップ


訓練と改善を繰り返し更新へ

和田さんらを中心に同地区で、タイムラインの作成が始動した昨年8月から4回にわたり、ワークショップを開催してきた。

毎回、国土交通省の近畿地方整備局やNPO法人「環境防災総合政策研究機構」、大阪管区気象台などから専門家を招請。住民らは高潮発生のメカニズムや身を守るポイントなどを学び、話し合いを重ねてきた。毎回の参加者は50人以上。回を追うごとに人数が増え、参加者からは「高潮を意識するようになった」「非常時の行動がすぐに頭に浮かぶようになった」などの感想が寄せられるように。和田さんは「大事に至らなければ"もうけもん"くらいの気持ちでタイムラインに沿って命を守る行動をしてほしい」と話していた。

7月23日午前10時。高潮タイムライン策定後、初めての防災訓練が実施された。猛暑にもかかわらず、83人の住民が所属する班名の書かれたゼッケンを着用して参加。11時には、市危機管理課から「貝塚市に警報が発令されました」と、自主防災会の塩田四郎会長(82)に一報が。それを受け、塩田さんから各班の班長らにタイムラインの段階がレベル4に引き上げられたことが告げられ、住民らは自分の役割や避難路の確認を入念に行っていた。

訓練に参加した女性は「安否確認を連携しながら進めることが難しかった。普段の近所付き合いで顔の見える関係をつくることが大事だと感じた」と話していた。

タイムラインは一度つくったら終わりというわけではなく、訓練と改善を繰り返し、更新していくことが欠かせない。住民が転出入したり、街並みが変われば当然、取るべき行動も変わってくる。定期的な訓練の実施は、防災意識低下の防止にもつながる。

訓練終了後、波多野真樹副市長は「防災に満点はなく、訓練をすると必ず改善点が出てくる。続けることが最大の防災になる」と語っていた。

タイムラインについては、市議会公明党(北尾修幹事長)の中山敏数議員が、2015年9月と16年3月の定例議会で導入を求めるなど働き掛けを続けてきた。なお高潮について、国交省ではコンテナヤードなど防潮堤で守られていない「堤外地」の対策を強化することにしている。


素晴らしいモデルケース


NPO法人環境防災総合政策研究機構 松本健一上席研究員

今回のタイムラインは大きく二つの特徴がある。一つは住民が自ら作成したこと。行政が作成した場合、タイムラインの項目を見ても住民にとってはピンとこない可能性がある。しかし、自分たちで作ると理解が深まり、いざという時はすぐに行動できる。中身以上に、作成に参加する過程で防災意識が高まることに重要な意味がある。

二つ目は、時間軸がはっきりしていることだ。これまで、自治体は災害時の行動計画を持っていても「いつ」が明確になっていなかった。そのため、その都度、判断をしなければならず、必ずしも迅速な対応が可能なものになっているとは言い難かった。

今回の高潮タイムラインは素晴らしいモデルケース。こうした"住民発"の取り組みが全国に広がることを期待したい。


タイムライン
災害発生前の前兆段階から「いつ」「誰が」「何をするのか」をあらかじめ時系列で整理し、人的被害を最小化するために用いられる米国発祥の防災行動計画。2012年10月にハリケーン・サンディが米国東海岸を襲った際には、ニュージャージー州の沿岸部で高潮により4000世帯が被災したものの、タイムラインに基づいた行動を取ったことで全く犠牲者は出ず、その効果が実証されている。

月別アーカイブ

iこのページの先頭へ