e福島復興へ歩む

  • 2017.08.14
  • 情勢/社会

公明新聞:2017年8月13日(日)付



官民合同チーム約4700の事業者訪問
発足から2年着実に実績



東京電力福島第1原発事故で避難区域が設定された福島県内12市町村の被災事業者を対象に、生業の再建を支援する「福島相双復興官民合同チーム」が、今月24日で創設から2年を迎える。これまでに約4700の事業者を個別に訪問。寄り添う支援で成果を積み上げ、今年4月からは営農再開支援も本格化した。公明党が推進した改正福島復興再生特別措置法により、体制も強化された。事業者と官民合同チームが一丸で復興へ歩む姿を追うとともに、陣頭指揮を執ってきた高木陽介前経済産業副大臣(公明党)に話を聞いた。


陶吉郎窯(いわき市)


資金調達でき「父子展」
伝統工芸の 大堀相馬焼 来春には新工房も

300年余りの歴史を持つ陶磁器・大堀相馬焼。産地の福島県浪江町大堀地区は、原発事故の後、いまだ自由に立ち入れない。

「何があっても、大堀相馬焼の看板を背負い続け、誇りと伝統を守っていく」。避難先の同県いわき市で作陶に精を出す「陶吉郎窯」窯元の近藤学さん(63)、長男の賢さん(36)。覚悟は決まっているものの、悩んでいた。

「震災後初めての『父子展』を開きたい。だが、集客費が足りない......」。二人は、プロジェクトに共感してくれた人から、インターネット上で資金を募る「クラウドファンディング」(CF)に乗り出した。

挑戦を支えたのは、官民合同チームの高橋宣武さんら復興コンサルタントだ。CFの運営会社に同行訪問し、学さん、賢さんが大堀相馬焼の継承にかける熱い思いや、企画内容を共に説明。ネット上での情報拡散への助言や、チラシ作成にも進んで汗を流した。

"二人三脚"の奮闘が実り、目標額の120万円を上回る141万6000円を集め、全国にファンも拡大。広報に力を注いだ父子展は、9日間の期間中に500人近い来場者があり、作品の売り上げは予想以上の430万円にも上った。

来春、市内に新工房を構える学さん、賢さん。「官民合同チームは、とても心強い存在。ずっと支えてもらいたい」と願っている。


ふるさと福島(新潟・胎内市)


販路の開拓に手応え
桑茶など新商品を開発

「状況は目まぐるしく変わったが、今を生きることが大事。勇気と信頼があれば何でもできる」。原発事故後の約6年半を振り返り、株式会社「ふるさと福島」の泉田昭代表取締役(69)が豪快に笑った。

福島県南相馬市小高区で5代続く農家の長男。避難を余儀なくされ、新潟県内を転々としたが、居を構えた同県胎内市で13年6月に同社を設立。農家の誇りを胸に、農業の6次産業化で一から信頼を紡いできた。

苦労して購入した農地で、事故前から高い健康効果に注目していた桑の葉や、大根の栽培を始め、試行錯誤の末に桑茶や切り干し大根の商品を開発。消費者の反応も上々で、農家レストランも開店した。

もっと販路を開拓したいと思っていた矢先に出会ったのが官民合同チームだった。16年12月から、外部専門家(コンサルタント)の白石展子さんが担当に就いて以来、既存の商品名やパッケージの変更、新商品や加工品レシピの提案など、戦略を次々に練り直した。国内最大の流通展示会にも参加し、着実に手応えを感じるまでになった。現在は、新商品の開発も検討中だ。

「目から鱗の日々。本当に親身になってくれ、商品に自信が持てた。従業員教育までしてもらって」と泉田さん。古里を思いつつ、まずは早く自立し、地歩を固めたいと意気込んでいる。


いちごランド(飯舘村)


地元で6年ぶりの出荷
営農再開グループが農家応援

「6年ぶりの出荷。たくさんの人に飯舘のイチゴを味わってもらいたい」。菅野幸蔵さん(63)は、生まれ育った福島県飯舘村にある「いいたていちごランド」で、2000平方メートルのハウスで約1万4000株の夏秋イチゴの苗を育てている。

原発事故による全村避難で営農休止を余儀なくされたが、菅野さんは昨年7月、福島市内からいちごランドへ通いながら育苗を再開。今年5月から日々、イチゴの収穫・出荷作業に汗を流している。

懸案は販路の確保。全国の飲食店や消費者に食材のプロモーションを行うベンチャー企業と契約し、新たな経営スタイルが順調に進んでいる。これは、今年4月から訪問活動を開始した官民合同チームの営農再開グループがサポートした成果だ。

営農再開グループは現在、被災12市町村の避難指示区域内の農業者を対象に営農再開に向けた課題解決へ必要な支援を展開。これまでの訪問件数は500件以上で、農業者が自立できる営農基盤の確立をめざしている。

菅野さんの支援に奔走する訪問員の丹治豪久さんは、「避難した農業者が置かれている状況はさまざま。皆さんが安心して営農できるよう尽力したい」と決意している。


事業再建へ寄り添い支援
家族と暮らす街づくり進める


高木陽介前経産副大臣に聞く

―官民合同チームを立ち上げ、2年間、陣頭指揮を執ってきたが。

高木・前経産副大臣 これまで4700の事業者を個別に訪問し、コンサルティング支援などを通して、事業再開や販路開拓を後押ししてきました。

「事業が再開できれば、それで良い」のではなく、しっかりと事業の継続ができるまで、その後のフォローアップ継続を大切にしてきました。まさに「寄り添う」を体現した2年間でした。今では事業者から「官民さん」と呼ばれるようになり、地域に根差すことができました。

―被災12市町村を取り巻く今の課題は。

高木 これからは、まちづくりを進めるのが肝心です。事業者と共に家族も帰還するので、医療・介護、商業施設など生活に必要なものがなければ、長続きしません。そこで、官民合同チーム内にまちづくり担当のグループを設置。12市町村や商工会などと連携して議論しながら、必要な事業者の再開を後押しし、点と点を結び、面にしていく流れをつくりました。

―官民合同チームへの期待は大きい。

高木 この2年で、ようやく軌道に乗ったところと言えます。さらに、改正福島復興再生特別措置法により、官民合同チームの中核を担う福島相双復興推進機構が法定化され、国、県、民間の職員が機構の傘下に入るなど体制が強化されました。今後は、福島県浜通り地域に新産業を創出する「福島イノベーション・コースト構想」で、新たに進出する企業と12市町村の事業者とのマッチングを行うなど多角的な支援も重要です。

復興はまだまだこれからです。官民合同チームが今後も、事業者の一人一人に寄り添う支援を継続し、復興を前に進めることを願っています。

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