eコラム「北斗七星」

  • 2017.07.10
  • 情勢/社会

公明新聞:2017年7月8日(土)付



「蟻のみち見詰めて蟻を脅かす」。関西出身の俳人、後藤夜半の句である。夏の季語として最も好まれる蟻。しかし、使われ始めたのは大正以降(山本健吉『基本季語五〇〇選』講談社学術文庫)。意外に歴史は浅いのだ◆それにしても「蟻」と聞けば、反射的にヒアリが思い浮かぶのは、何とも悲しい。時に人の命を奪い、「国内で絶対繁殖させてはならない外来種」と専門家が口を揃える"最凶アリ"だ。東京港で国内5例目。女王アリの死骸は大阪市と兵庫県尼崎市で発見された◆かつて、よく見掛けるアリの生態について驚いたことがある。組織だって狩猟や採集を行う働きアリの2割は「働いていない」のだ。ところがアリが疲れて働けなくなると、怠け者の働かないアリが巣の致命的被害を防ぐため粉骨砕身するらしい。英科学誌に載った長谷川英祐・北海道大大学院准教授の研究結果だ◆人とアリの戦いを描いた米映画『黒い絨毯』。モチーフになったグンタイアリは集団で生物を襲うものの、武器は大顎。片やヒアリは強毒で他を倒す。生命力も強く、配電盤などに入り込み、停電や火災の原因に。「米では経済損失が年間5000億円に上る」(NHK)というから驚く◆夜半ではないが、アリの隊列を見つけては脅かした思い出がある。誰も「昔話さ。今は危なくて」と言いたくはあるまい。(田)

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