eコラム「北斗七星」

  • 2017.06.21
  • 情勢/社会

公明新聞:2017年6月21日(水)付



「千里の長大な堤防も、蟻の穴から漏水し始め、百尋(約180メートル)の広大な邸宅も、煙突の隙間から洩れる火の粉で焼けるものである」。池田知久氏による訳注『淮南子』(講談社学術文庫)の一節だ◆中国・前漢時代、淮南国の王に任じられた劉安が編纂した『淮南子』(紀元前139年)。ここに煙突とセットで登場する蟻は、些細な事から大事が起こるという教訓を例示したもの。ところが、同じ蟻でも今度ばかりは厄介だ。ヒアリである◆中国・広東省の港を出て兵庫県の神戸港で陸揚げされ、尼崎市内に運ばれたコンテナ内と、一時保管されていた神戸港のコンテナ置き場から国内で初めて見つかったのだ。その数は数百匹。南米原産なのに、流通する荷物にまぎれ、生息域は米国、中国、台湾にまで広がっている◆「火蟻」という和名が示す通り、性質はどう猛。強い毒を持ち、腹部にある針で何度も刺す。巣を刺激すると集団で襲いかかり、刺されると、激痛の後、呼吸困難などに見舞われ死に至る場合も。米国では年間100人以上が命を落としていると聞く◆ちなみに、中国の別の古典には「堤の潰るるは蟻穴よりす」(古詩源)とある。"強毒蟻"がいるのは今回初めて知ったが、蟻の穴で堤が崩れるのは古くから言われていた。壁を破る一歩が積み重なれば、予想を遥かに超える力となるのだ。(田)

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