eコラム「北斗七星」

  • 2017.04.24
  • 情勢/社会

公明新聞:2017年4月22日(土)付



いまから100年ほど前、一人の開拓者が植え始めた桜並木に今年も見事な花が咲いた。福島県富岡町夜の森地区を彩る「桜のトンネル」である。原発事故の後、すべての住民が町外に避難してからも、変わることなく町をピンク色で飾る。6年の時を経て、この春の桜はこれまでと趣が少し違って見えた◆町の大部分で避難指示が解除され、自宅に戻ってきた人々の"笑顔の花"が満開の桜に重なったのかもしれない。生活に不便は多けれど、帰郷して心ゆくまで桜花を眺められる喜びは、いかばかりであろう◆福島の浜通り地方で子どもたちと一緒に桜を植え続ける女性がいる。NPO法人「ハッピーロードネット」理事長の西本由美子さん(63)。東日本大震災の前に、一人の高校生が「浜街道を日本一の桜並木に」と提案したことから企画は立ち上がった◆だが、その生徒は、悲運にも津波で命を失う。"夢"は3.11でついえかける。それでも、西本さんは震災翌年から活動を再開した。「あの子との約束を守りたい」と。県沿岸部に10年で2万本を植えゆくこの計画は、全国からの支援も得て、来春にも1万本に達する◆「30年後の故郷のために」。西本さんたちの未来への願いがこもった桜並木の下でいつか、たくさんの笑顔が咲き乱れる。そんな日をわが胸に浮かべている。(渡)

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