eコラム「北斗七星」

  • 2017.03.21
  • 情勢/社会

公明新聞:2017年3月21日(火)付



「十年一昔」。10年を一区切りに大きな変化があるという意味だ。激動の現代では死語になりつつあるが、それでも変わらぬものもある。歴史に潜む知恵だ◆「現在の眼を通してでなければ、私たちは過去を眺めることも出来ず、過去の理解に成功することも出来ない」。55年前に初版されたE・H・カーの『歴史とは何か』(岩波新書)の一節である。院生時代、経営史の研究で悩み、同著と出合った衝撃は今も鮮明に覚えている◆一般に歴史に関する書籍といえば、英雄を軸に展開されるのが定番。織田信長の関連本は、その代表格だろう。ところが、である。発売前は予想できなかった英雄の登場しない本が今、売れに売れているらしい。11年に及ぶ泥沼の戦を扱った呉座勇一の『応仁の乱』(中公新書)である◆新書としては分厚い上、知らない登場人物ばかりで、関係も複雑。なのに発売5カ月足らずで28万部に。「不透明感が強くなった現代の雰囲気に、英雄のいない、『ぐだぐだ』の応仁の乱がマッチしたのでは」(中央公論4月号)と著者は分析する◆一方で第1次世界大戦と応仁の乱を重ね、「状況をコントロールできる指導者が誰もいなかった」とも。歴史観と感性。「私が一番心配なのは不断に動く世界に対する行き届いた感覚が失われていること」。カーの指摘もまた今を予見しているようだ。(田)

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