eコラム「北斗七星」

  • 2017.01.30
  • 情勢/社会

公明新聞:2017年1月28日(土)付



もう一度「ありがとう」を言いたい人はいますか? ハリー・ケリー博士にとって、その一人は日本の老婆だった。雪博士、中谷宇吉郎が随筆『ケリイさんのこと』に書いている◆ケリーは戦後、連合国軍総司令部の一員として来日。冬、北海道で調査を行う。馬そりで帰る夕方、吹雪に。暗闇の中、幸運にも灯を見つけ農家にたどり着く。家の老婆は、いろりでまきをたき、彼を暖めた。彼は日本の科学再建に大きく貢献し、帰国。後年、中谷に言った。「日本への一つの心残りは、帰る前に今一度あのおばあさんを訪ねる時間がなかったことだ」◆北斗子は土曜と日曜、本紙を配達している。スキー場のある地域で冬は雪に包まれる。2年前のこと。配達中、車をバックさせ、深い雪の中にはまった。タイヤが空回りし抜け出せない。暗闇の中、途方に暮れた◆思いがけず車が通りかかった。男性が下りて来た。脱出用の板をタイヤの下に差し込んで車を動かしてくれた。「本当に助かりました」と礼を言い、連絡先を尋ねた。それには及ばないと手を振り、彼は去った。思い出すたび温かい気持ちになる。そして慎重な運転を自分に言い聞かせる◆「あのとき助けてくれて、ありがとう」。こう言いたい人が多くいる。いつか実行したい。その日まで自分も人を助けていきたい。(直)

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