e子どもの幸せを第一に

  • 2016.10.04
  • 情勢/解説

公明新聞:2016年10月4日(火)付



赤ちゃん縁組"愛知方式"のメリット
特別養子縁組が前提の新生児里親委託
妊娠中から生みの母をケア
萬屋育子 特定非営利活動法人CAPNA理事長に聞く



6歳までに子どもを養親が引き取り、実子として育てる特別養子縁組。児童相談所などが関与し、この特別養子縁組を前提に赤ちゃんを養親希望の里親に預ける"愛知方式"について、拡充と運営に深く関わってきた萬屋育子さん(特定非営利活動法人[NPO法人] CAPNA理事長)に話を聞きました。


虐待死 多くは出生直後

―2014年度中に発生・発覚した44人の虐待死事例のうち、0歳児が6割を超える27人、うち15人は生後24時間以内に死亡。その15人中14人は予期しない妊娠で産まれた子どもでした。


萬屋育子・特定非営利活動法人 CAPNA理事長 この傾向は近年、変わっていません。政府の産前産後の切れ目ない子育て支援は評価しますが、あくまでも医師の診察を受けて母子手帳をもらった妊婦に対してのものです。レイプをはじめ、望まない性交で妊娠した人や、経済面その他の理由で、産んでも育てられない妊婦の中には、誰にも相談できず、孤立し、最悪のケースに至ってしまう人もいます。

子どもの命を助けるため、私たちの取り組んでいる特別養子縁組を前提とした新生児里親委託(赤ちゃん縁組)制度を、一人でも多くの人に知らせ、子どもの命を一人でも多く救いたいと思って活動しています。

―特別養子縁組について教えて下さい。


萬屋 当事者間の契約で決まる普通の養子縁組に対し、特別養子縁組は家庭裁判所の「審判」で決まります。産みの親が何らかの事情で育てられない「要保護児童」に恒久的な家庭を与えることが目的です。子どもは養親の実子として扱われ、実の親との法律上の親子関係は消滅。養親側はどちらかが25歳以上の夫婦であることが求められ、原則として離縁(親子関係の解消)は認められていません。

―特別養子縁組を前提とした新生児里親委託は"愛知方式"と呼ばれています。


萬屋 愛知県産婦人科医会が1976年から99年まで「赤ちゃん縁組無料相談」を行っていました。

県内の児童相談所で児童福祉司をしていた矢満田篤二さんが、この産婦人科医会の手法に子どもの視点を加え、子どもを迎える夫婦に(1)おおむね40歳まで(2)子どもの性別などは一切不問(3)子どもに障がいがある可能性も受容し、自分たちの出産と同じ覚悟で臨む(4)適当な時期に、自分たちが産みの親でないことを伝える「真実告知」を行う(5)子どもが成長し、出自を知りたいという希望があれば、親として協力する―などの厳しい条件を付け、82年に初めて、児童相談所の業務として新生児を里親に委託することを始めました。

この方式が県内の児童相談所に徐々に広がり、矢満田さんの退職後も私も含め後輩の児童福祉司に受け継がれ、現在、名古屋市も含め、県内に12ある児童相談所で一般的なケースワークとして実施されています。

矢満田さんはその後、CAPNAの前身である子どもの虐待防止ネットワーク・あいちの創設にも尽力し、私の師匠のような存在です。

―新生児の里親委託にこだわる理由は何ですか?


萬屋 子どもが育つ上で大切なのは、子どもの側に「この人の胸に抱かれていれば安心だ」という愛着の絆が強く結ばれることです。この愛着の絆は、最近の脳に関する研究では、生後3カ月まで結ばれたものが非常に深いといいます。

私たちの経験から言っても、生後すぐから里親の元で育った子どもに比べ、数カ月以上たってから里親に引き取られた子どもは、試し行動や赤ちゃん返り、愛着障がいがあったりなど、不幸な姿が見られます。また愛着関係は特定の保護者による継続的な世話(パーマネンシー・ケア)によって形成されますが、職員が交代で世話をする施設養護では、愛着関係は結ばれにくいといえます。

―国も里親委託を進める方向に政策転換を図っています。


萬屋 2011年3月に出された厚生労働省の里親委託ガイドラインでは、愛知県の取り組みが参考資料として紹介されました。同年7月の同省の通知では、匿名希望の妊娠相談でも対応するよう促したほか、妊娠中からの相談を含め、特別養子縁組を前提とした里親委託が有用だとしています。

今年5月に成立した改正児童福祉法によって児童相談所の業務に、里親の支援や養子縁組の利用促進に向けた相談などが明文で加えられました。愛知方式の推進には追い風といえます。

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