e寄稿 相模原市の障がい者施設殺傷事件

  • 2016.08.17
  • 情勢/社会

公明新聞:2016年8月17日(水)付



東京大学 福島 智 教授



相模原市の障がい者施設殺傷事件を受けて再発防止策が検討される中、障がい者の課題解決に取り組み、自身も全盲ろう者である福島智東京大学教授の寄稿を紹介する。


命を奪う「優生思想」に戦慄。障がい者と共生する社会に

犯罪行為には、三つの条件が関連するという。動機、手段、機会の三つだ。

相模原市で起きた障がい者殺傷事件に当てはめると、どうなるだろうか。事件からおよそ3週間。不明な点は多いものの、おぼろげながら、そのおぞましい姿はうかがえる。

まず、重要なのは「動機」だ。「重度の障がい者は生きていても仕方がない。安楽死させた方がいい」。植松聖容疑者は、こう供述したとされる。

私がこの発言で連想したのは、ナチス、ヒトラーによる障がい者抹殺の歴史だ。ナチスはユダヤ人大虐殺だけでなく、知的障がい者らを、優生思想に基づき「生きるに値しない」として、およそ20万人を抹殺した。それで、「容疑者は、ナチズムのような何らかの過激思想に感化され」たのではないかと、「毎日新聞」への寄稿の中で記した。事件発生2日後の7月28日のことである。

翌29日。容疑者は2月に措置入院した際、「ヒトラーの思想が2週間前に降りてきた」と話していたという戦慄すべき報道が流れた。私は背筋が凍りついた。

一方、容疑者は衆院議長への手紙の中で、障がい者を抹殺する理由の一つに「世界経済の活性化」を挙げている。そして、「障がい者は不幸を作ることしかできません」と断定する。これらの主張が容疑者の犯行動機のすべてかどうかは不明だが、主要な部分を占めることは推察される。

「手段」についてはどうか。容疑者はハンマーや複数の刃物の他、職員を縛るための結束バンドを用意するなど、周到な準備をしている。殺害のための「手段」は十分に持っていた。

そして、「機会」。容疑者は46人の障がい者らを殺傷するのに、約50分しかかけていない。なぜ、このような「機会」が彼に与えられたのか。その最も大きな理由は、犯行現場が「入所施設」だったということだろう。当夜も、およそ150人の入所者がいたという。近接する空間にこれほど多数の重度障がい者がいるという状況こそが、今回の犯行を可能にしたのは明らかだ。

重度障がい者が大規模施設で生活するのではなく、地域のグループホームや自宅で安心して暮らせるような社会。そうした社会をつくることが、今回のような事件を防ぐ上で、最も効果的な取り組みではないだろうか。

月別アーカイブ

iこのページの先頭へ