eコラム「北斗七星」

  • 2016.08.17
  • 情勢/社会

公明新聞:2016年8月13日(土)付



<ふるさとの伝説は一粒一粒に実を結び つぶらな実に遠い空の夢を宿す>。日本帝国主義による朝鮮半島の植民地支配に抵抗し、1944年に獄死した詩人、李陸史の「青葡萄」から引いた。美しい平和な故郷を歌う中に、奪われた祖国への深き愛情がにじみ出る◆ぶどうからワインを醸造すると「酒石酸」という結晶体が生じる。これは、潜水艦や魚雷の音波をキャッチする「ソナー」の材料となることから、第2次世界大戦中、日本海軍の軍需物資となった。やがて「ブドーは兵器だ」とばかりにワイン造りが奨励されるようになったとか◆この話を、山形県朝日町のワイナリー(醸造所)で聞いた時、口の中に、苦みと酸っぱさが広がった。実際、酒石酸を抽出した後のワインは酢のような味で、「まずい酒」のイメージが拡散。戦後、多くのワイナリーが閉鎖に追い込まれた◆<沈黙のわれに見よとぞ百房の黒き葡萄に雨ふりそそぐ>。この歌は45年秋、斎藤茂吉が疎開先の山形で詠んだ。敗戦に言葉を失った茂吉の悲愁と孤独を現している。戦意高揚の愛国歌を作った反省との解釈もあるが"表現者として現実を見よ"と自身を鼓舞する一首ともされる◆まもなく71回目となる終戦の日がめぐり来る。あの戦争を、歴史を直視し、不戦と平和の誓いを新たにしたい。(川)

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