e世界の食卓へ広がれ日本の養殖魚

  • 2016.08.01
  • 情勢/解説
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公明新聞:2016年7月31日(日)付



ウナギ 量産への道
国立研究開発法人水産 研究・教育機構理事長 宮原 正典氏
参院議員 横山 信一氏



きのうは「土用の丑の日」。高値で手の出しづらいウナギ(ニホンウナギ)を完全養殖によって量産化する研究が国を挙げて行われています。一方、日本が誇る最先端の養殖技術を生かし、高品質の養殖魚を海外輸出する動きも出ています。こうした日本の養殖業をめぐり、国立研究開発法人水産研究・教育機構の宮原正典理事長と公明党の横山信一参院議員(水産学博士)に語り合ってもらいました。


完全養殖の成功まで50年 宮原


謎多い生態の解明がカギ 横山


横山 水産研究・教育機構(旧水産総合研究センター)が、2010年に世界で初めてウナギの完全養殖に成功しました。

14年にウナギが国際自然保護連合により絶滅危惧種に指定されたこともあり、国民の中には完全養殖によって量産化されることへの期待が高まっています。「もうすぐ安い値段でウナギが食べられる」と。

宮原 期待はひしひしと感じています。ただ、ウナギは人間の思い通りにならない難しい魚です。完全養殖は、ウナギの赤ちゃん「レプトセファルス」から、子どもの段階に当たる「シラスウナギ」を経て、親まで育てて卵を産ませ、それをさらに親にし、卵を産ませることです。この研究は1960年代に始まり、成功まで50年かかりました。

横山 ウナギはなぜ、日本から2500キロ以上も離れた太平洋の西マリアナ海嶺付近で産卵するのか。なぜ、わざわざ日本までやって来るのか。謎が多い生態の解明がカギですね。

やっとの思いで人工ふ化しても、これをシラスウナギにまで育てるのも難航したようで......。

宮原 そうです。自然の中で何を食べているかが分からず、20年以上にわたり、さまざまな餌を試しました。そうして90年代半ば、アブラツノザメの卵なら食べることが分かりました。

横山 当時、私は北海道庁の職員として栽培漁業の研究に携わっていて、そのニュースに驚きました。通常の魚類養殖の感覚からは思いつかない発想です。

宮原 何度も失敗を繰り返した末のブレークスルー(行き詰まりの打開)でした。私たちは、シラスウナギを1万尾生産することをめざし、今も四苦八苦しています。国内の養殖を賄うのに1億尾が必要で、ウナギ量産への道はまだまだ遠いと言わざるを得ません。

横山 ぜひ諦めず、挑戦を続けてもらいたいと思います。与党として、しっかり応援していきます。


国際商品化に高い将来性 宮原


最先端技術の開発後押し 横山


横山 ウナギに代表されるように、日本の養殖技術は世界トップ水準です。こうした技術を生かし、味や色、肉質などを消費者の好みに合わせた養殖魚も出てきています。安全で付加価値の高い養殖魚を世界に売り込むことは水産業活性化の柱で、政府の成長戦略にも盛り込まれています。

宮原 日本では一般に養殖魚が天然魚より下に見られています。だから一生懸命にコストをかけて育てても、あまり高く売れなかったりします。一方、海外では、資源の限られた天然魚を取り続けるくらいなら、人間のコントロール下で作った養殖魚の方がいいという傾向があります。世界の人口増加に対応する食料生産として養殖業の存在感が高まっており、日本の養殖業は将来性が大きいです。

横山 養殖業は安定した出荷量を見込めるのがメリットです。育てやすく、ある程度の価格が期待できるなど、対象魚種を見定めて戦略を立てることが重要でしょう。

宮原 例えば、ブリ類は私たちの戦略魚種の一つです。米国、メキシコ、オーストラリアなどが養殖に力を入れていますが、これらの国に伍して勝つような品種を作っていかないとダメだと思っています。

また、中華料理に珍重されるクエやハタも有望です。カキ、ホタテ、タイラギなど貝類も、日本の養殖技術が高く、国際商品化すべきものでしょう。

横山 養殖業は、排泄物や食べ残しによる水質汚染など環境に与える負荷が大きかったり、病気の発生などに対する懸念があったりします。その点、陸で魚を育てる「陸上養殖」は環境負荷が小さく、期待できます。技術開発を進め、養殖業者にかかるコストが下げられるよう、後押ししていきたい。

宮原 心強いです。今、沖縄県の石垣島では、スジアラを陸上養殖し、中国へ輸出する計画があります。石垣島から見ると、東京より上海に出荷した方が近いからです。離島などの条件不利地域に新しい産業を興すことは、地方創生にもつながります。

横山 素晴らしい試みですね。養殖業が各地で盛んになれば、水産業全体が元気になってきます。一緒に盛り上げていきましょう。

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