eコラム「北斗七星」

  • 2016.05.09
  • 情勢/社会

公明新聞:2016年5月4日(水)付

「取り壊して更地にするしかないだろう」。兄がつぶやいた。熊本で発生した大地震で築100年近い実家の瓦は落ちて天井の一部に穴が空き、壁にもヒビが入った。幸い一人で住んでいた93歳の母は、介護施設に入所していて落下物から守られた◆隣に住む兄の家は持ったが、2度の大地震の後は「また大揺れが来たら」との恐怖から、家族全員が10日ほど車で寝泊まりした。電気・ガス・水道といったライフラインも、実家一帯はしばらく断水。復旧後も水圧低下でわずかしか水が出なかったし、煮炊きや風呂に必要なガスも復旧が遅れ、苛立つ生活だった◆「あはれ子の夜寒の床の引けば寄る」。熊本出身の俳人・中村汀女の句だ。寒気を覚えた夜更け時、脇に寝ている幼いわが子の身を案じる母親が、自分の寝床の方へ子どもの床を引き寄せた。そうした所作を詠んでいる。いとも軽々に寄せられる頼りなさが、"あはれ"の一語に込められている◆5月になったが、九州内陸に位置する熊本の朝晩は冷える。阿蘇など山間部はなおさらだ。筆者の卒業した小中学校、高校は今でも避難所となっているようだ。避難所やテント生活を強いられている幼い子どもを抱えるお母さんにとって不安な毎日のことだろう◆「こどもの日」を前に一日も早い事態の終息を願う。(流)

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