eコラム「北斗七星」

  • 2015.12.28
  • 情勢/社会

公明新聞:2015年12月28日(月)付



小5の娘と、福岡県内で先行公開中の映画『はなちゃんのみそ汁』(来年1月9日、全国公開)を見た。がんとの闘病、出産を経て、33歳で亡くなった福岡市の主婦・安武千恵さんと、夫で西日本新聞編集委員の信吾さん、娘はなさんのエッセーに基づく実話だ◆出産後、がんが再発した千恵さんは、娘が一人でも生きていけるようにと、4歳から家事を教えた。「みそ汁をつくること」もその一つだった。生前、ブログに綴った。「私は、がんになった後に、ムスメを授かりました。だから、この子を残して、死ななければなりません。(中略)心残りがないように、死ななければなりません」◆はなさんは中1になった今も、母との約束を守り、毎朝、みそ汁をつくり続けている。「食べることは生きること」と教えてくれた母の思いを、まっすぐに受け止め、「夢は栄養士」と。これほど大きなものを、親は子に残せるものだろうかと自問した◆千恵さんはホルモンの関係でがん再発の危険性が高まることから、出産するか迷った。悩み苦しむ中で、実父からメールが届く場面がある。「死ぬ気で産め」。娘は決断した◆たとえ次元は異なっていても、懸命に、真剣に生きた母の姿は、子どもたちの心に永遠に残るに違いない。みそ汁の湯気がやけに目に染みる年の瀬である。(也)

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