e平和安全法制 識者に聞く

  • 2015.09.02
  • 情勢/社会

公明新聞:2015年9月2日(水)付



拓殖大学教授/日本安全保障貿易学会会長
佐藤 丙午氏



日米同盟の実効性強まる


中国との対話の環境醸成に貢献


―著名な国際政治学者らの有志が、平和安全法制の参院審議で、安全保障環境の変化に関する議論をもっと深めてほしいと与野党の各会派に要望しました。


安全保障環境の変化について、軍事的側面を見る必要がある。ただしそれは、特定の国を軍事的脅威と見るのではなく、あくまで相手国が軍事力で何を行うことが可能かを評価することである。中国の軍備増強と海洋進出は、公海における航行の自由など、国際社会の秩序の変更を迫る潜在性がある。


また、中国が開発を急ぐ、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載できる夏級原子力潜水艦が量産され、それが伊豆諸島からグアム、サイパン、パプアニューギニアをつなぐ第2列島線まで出てくれば、米国の日本防衛に対する関与の信頼性は下がるだろう。


こうした将来起こり得る事態を想定し、今から議論を深めておく必要がある。


中国は、国際社会における力対力の論理をよく理解しており、対話はしやすい。中国は、軍備を増強しても自国の目標は実現できないという環境に置かれるときに、米国や日本との対話を求める。平和安全法制の整備は、そうした環境の醸成に貢献するだろう。


安全保障の専門家の中には、中国に対して、もっと強い姿勢で臨むべきだと考える人もいる。ただ、日本社会にある軍事に対する嫌悪感や、憲法をはじめとする法制度の、これまでの議論の経緯などにも配慮しなければならない。


その意味で、今回の法制は、全ての方面の要請をうまく取り込んだ、バランスの取れたものになっている。


―今回の法制整備で、日米防衛協力体制が強化されると期待されています。


米国は自軍の拠点、艦船、潜水艦、航空機の安全が担保されていない状況では、軍事的リスクを回避する。


従って、警戒・監視・偵察を含めた情報収集をはじめとする米軍の作戦運用や諸活動の基盤を、日本がどう防護するかという点が日米安全保障協力において非常に重要になる。


今回の法制では、公海上で日本防衛のために活動する米軍艦船の防護が打ち出されている。これにより、防衛協力における日米の信頼関係が一層高まることになるだろう。


―ミサイルの精緻な位置情報を同盟国間で共有し、即時に迎撃できる「共同交戦能力(CEC)」システムの、日本のイージス艦への導入がめざされています。CECは米軍艦船の防護にも活用できるといわれており、CECを運用するためにも、今回の法制整備が必要であると考えられています。


CECは、ネットワーク型戦術構想の下で開発された、狭い戦域を対象とした防護システムである。サブセカンド(1秒以下)での対処が可能とされる。CECが、多数の対空目標に同時に対応するイージス・システムと組み合わされると、北朝鮮などが発射した弾道ミサイルを迎撃するために開発している新型ミサイル「SM3ブロック2A」を運用する際、その艦隊防護に大きく貢献するものになる。


例えば、導入がめざされているCECを活用することで、日米のお互いの艦船を防護する態勢が強固になり、攻撃しても無駄であると相手側が認識するようになれば、相手の攻撃を思いとどまらせる「拒否的抑止」の強化につながるだろう。


今回の法制整備により、日米安全保障協力の実効性が、より強まることになるといえるのではないか。

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