eコラム「北斗七星」

  • 2015.08.31
  • 情勢/社会

公明新聞:2015年8月29日(土)付



「国家を脅かす敵としてこれほど恐ろしい敵はないはずである」。物理学者で随筆家の寺田寅彦が記した、その敵とは「最後通牒も何もなしに突然襲来する」天災のことである。約80年前、「天災と国防」と題する随筆の中で記している◆防災科学に力を注いだ寺田は、関東大震災を調査し「古い村家が存外平気で残っているのに、田んぼの中に発展した新開地の新式家屋がひどくめちゃめちゃに破壊されているのを見た」と。天災による過去の経験を大切に保存し蓄積してその教えを学ぶことを忘れ、文明の力を買いかぶって自然を侮り過ぎてはいけないと警告する◆その上で、「現代では日本全体が一つの高等な有機体である」だけに、「文明が進むほど天災による損害の程度も累進する」との指摘は今日、重みを増す。自然は生き物であり、時に思いもよらない動きを見せる。自然の脅威には逆らえないが、被害を最小限に食い止めることは可能だ◆東日本大震災でも、岩手県釜石市で市内の小・中学生がほぼ全員無事に避難できた「釜石の奇跡」を生んだ避難原則の第一は「想定にとらわれない」である。片田敏孝・群馬大学大学院教授が防災教育で徹底したことが功を奏した◆あすから防災週間(9月5日まで)。自然に謙虚に向き合い、災害への備えを強めていきたい。(紀)

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